[ 自らの足で其処に立つ ]





「ちょっとだけ、徹と距離を置きたいの」そんなことを言われた。
それって別れるってこと?
尋ねなくたってわかるよ。
「じゃあ別れよう」そんな言葉が口から出ていた。
少し間があって、は頷いたんだ。
俺の提案に同意するということ。
俺たちは別れて、恋人同士からただの幼馴染に戻る。
戻れるのかな、本当に。
ぎこちない関係になりそうな気がする。
今まで、本当に仲良くやってこれたのに。

日が沈むのも早くなった。
部活帰り、高柳は病院に行ったから俺一人で歩く帰り道。
夜道を照らす街灯が、ときどきちらつく。
いつの日か、電球は切れるだろう。
いつか日か、俺はのことを想っていたことを忘れるのだろうか。

晩ご飯は肉じゃがだった。
いわゆるおふくろの味。
おいしいはずのものも、なんだか味がないように感じた。
何かをしようという気力がなくて、風呂に入ってすぐ眠ってしまった。
明日になれば、少しは元気になれる気がした。





「ねぇ、徹。宿題やった?」がいつもの調子で尋ねてきた。
宿題?そんなものあったっけ?
その前に、とはクラスが違うから、のクラスで宿題が出されていても俺のクラスでは出ていないこともある。
「いやいや、クラス違うだろ」そう言えば、は顔をしかめる。
そして、そのまま俺の前を歩いていった。
呼び止めようとして、激しいベル音に目が覚めた。

夢、だったんだ。
慌てて目覚まし時計を止める。
布団を剥がしてベッドから降りた。
通学鞄が目に入る。
そして気付く。昨日の数学の授業で宿題が出されたことに。
顔から血の気が引いた。
数学教師は怖くて有名。ただでさえ、数学の成績がイマイチなのに。

朝練どころじゃないと思い、高柳の携帯にメールを入れておいた。
パンをくわえて家を飛び出すところは、まるでマンガの世界のよう。
歩きながらパンを食べた。
近くのコンビニでレモンティーを買った。
電車の中でそれを飲んだ。
レモンティー、は好きなんだよな。だから、俺も好きになったんだ。

学校に着けば、教室へ向かってダッシュする。
誰もいない朝の教室。
数学の教科書とノートを開いた。
きっと、昨晩なら解けなかっただろう。今なら解ける気がする。
のこと、吹っ切ったわけじゃないけれど、がそうしたいと思ったのだからそれでいいんだ。
あんまり、にいい思いさせてやれなかったなとか、少し後悔した。
部活で忙しいことを言い訳にして、自分だけが疲れていると思い込んで甘えていた。
に優しくすることを忘れていた。
そんな大事なことを忘れるくらいなら、もう恋人同士になんてなれないかもな。
大好きなんだけどな。どうしたらいいんだろう。





「徹じゃん。こんな時間にいるなんて珍しいね!」

?」

「朝練行かないの?・・・あ、宿題忘れたとか」

「ビンゴ」





はいつもの調子だった。俺の返事に笑っている。
開けっ放しの教室の扉から、俺の姿が見えて声を掛けたのだろう。
そういえば、は朝の読書タイムを確保するために、早くから学校に来ていたな。
今までの関係なら、は俺の傍まで来るだろう。
けれど、教室の扉の所にいたままなのは、俺達の関係が変わったことを主張している。
「がんばれー」と言い、はひらひらと手を振って去っていった。

がいなくなって、急に淋しくなる。
もっと大切にしておけばよかった。
後悔なんていくらでもできるのに、先には立たないんだ。
先手必勝、なのに、何もしなかった。
頭悪いな、俺。
大切なものは、大切にしなくちゃ壊れてしまうのに。

数学の授業、朝にやった宿題を前に出て解答するよう指名された。
すぐに解けた。
夢の中でが声を掛けてくれなかったら、宿題のことなんて忘れていただろうな。

あぁ、そうか。
がいないと俺はダメになる。
一人で生きることができるように、強くならなきゃダメなんだな。
強くなれたら、は振り向いてくれるかな。
は俺に時間を与えてくれた。
だから、少しでも、の期待に応えられるように、自立しよう。







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三話完結で。ムリでした。笑
暗い話だなぁ…笑
徹くんは甘えたがりで甘え上手な気がします。
でも、甘えられてばかりじゃ女の子も疲れてしまいます。

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