誰も助けてくれない。
頼れるのは私だけ。
いつも頼れるあなたは、ここにいない。





      [ 大 切 な こ と 3 ]





誰も何もしていない。
景吾のこと嫌いになったわけじゃない。
ヒナタの存在に嫉妬しているわけでもない。
私が勝手に思って、考えて、それに憂鬱になっているだけ。
ヒナタと景吾の姿を見るのが辛い。自分が惨めになるから。
滅入ってる私に、太陽の光は見えない、浴びることも出来ない。

景吾は私のほうがいいと言った。
ヒナタは私のほうが景吾に似合うと言った。
けれど、私には景吾とヒナタのほうがよっぽどいいと思う。
お互いのこと良く知っているから、サポートしあえる。
私と景吾じゃ、あまりサポートできていないと思うの、なんとなく。
それに、ヒナタと話している時に見せたあの笑顔。
景吾は笑顔をほとんど見せない。レアなワンショット。
好きな人にだけ見せるというわけでもないから、本当に偶々なのかもしれない。
けれど、辛い。
やっぱり・・・・・・ただの嫉妬だね、これって。
ヒナタと景吾のツーショットが、すごく似合っていたから。
私は、いないほうがいいんだなって思った。
だから、景吾と目が合ったときに笑えなかったんだ。

空は、私の心と、私と景吾の未来を映しているようだ。
雨が降る、きっと。
私は急ぎ足で駅へ向かう。
けれど、間に合わなかった。
まだ5分ほどしか歩いていないのに、雨が降り出した。
大粒の雨、私に突き刺さるように降る。
それを遮る傘が無い。
仕方なく、タオルを頭にかぶって走る。

雨は止まない。

私は走り続ける。

息が切れるまで走ってたどり着いた駅が、私には天国のように見えた。
雨をあびなくて済むから。
同じようにタオルをかぶって走っていく他校生や、かばんを雨よけにする会社員、折り畳み傘を用意するOL。
みな、駅の屋根の下でそれぞれの仕度をする。
私は水の滴るタオルや制服の裾をを絞る。

憂鬱な心に雨がかかれば、きっと風邪でもひくだろう。
そうしたら誰か構ってくれるかな。
なーんて、本当に自己中心的な考え方してみたり。
濡れた格好では電車の中で座れない。
私は扉の側の壁にもたれ、窓の外の景色を眺める。
雨はまだ降り続けている。
ようやく、朝の天気予報で夕方から雨が降ることを思い出した。
あの時どうして折り畳み傘をかばんの中にいれなかったのだろう。
最近、抜けていると思う。どうかしていると思う。

ふーっと大きく息を吐く。
身体から力が抜けて、私の気は楽になった。
けれど、身体が熱い。視界が狭くなる。

どうやって家に帰ったか、よく覚えていない。
無意識のうちに、身体が家へ連れて行ってくれたみたい。
母親は私を温かく迎えてくれた。
お風呂に入って身体を温める。
そのまま部屋にあがり、ベッドに倒れこんだ。





太陽の光を浴びて目を覚ました。
どうやら昨日雨戸を閉めずに眠ったらしい。
重い身体を起こすけれど、頭がぼーっとしてベッドに座ったまましばらく過ごしていた。
朝練に行く為には7時過ぎに家を出なくてはいけない。
けれど、時計を見れば6時半。
この状態では急いでも間に合わないだろう。
遅刻すると景吾のメールを打とうとして携帯を手に取る。
受信メール2件、景吾とヒナタから。





     跡部景吾
     [件名]Re:
     [本文]
     ちゃんと家に着いたか?
     濡れて風邪ひいてないだ
     ろうな?早く元気な顔見
     せろよな。





     明月ヒナタ
     [件名]大丈夫?
     [本文]
     大丈夫?調子悪いんなら
     無理しないでね。雨かぶ
     ったんじゃない?この雨
     で部活は室内でトレーニ
     ングだって。マネ代行中
     です(^0^)/~~





景吾に黙って部活をサボったから、怒っていないか心配だった。
けれど、私のこと気遣ってくれている。
ヒナタも、同じように気遣ってくれて、マネージャーの仕事まで代行してくれているとか。
涙が出るくらい嬉しいことだ。
私はすぐに景吾に返信しようとしたけれど、母親が部屋に入ってきて、それは遮られた。





、風邪ひいたんじゃないの?顔が赤いし、ちゃんと起きれなかったでしょ?」

「うん、なんか、頭がボーっとする」

「熱かしら?体温計持ってくるから、朝練は休みなさい。跡部くんならわかってくれるでしょ?」

「うん、わかった」





景吾に急いで朝練を欠席するメールを打った。
それからヒナタに昨日のメールのお礼をする。
さすがにヒナタはまだ眠っているだろう、返事は来ない。
景吾からの返事は、私の体温が38度ということを知らせる体温計のピピピという音と共に届いた。





     跡部景吾
     [件名]Re:Re:
     [本文]
     本当に大丈夫か?無理す
     んなよ。こっちは大丈夫
     だから心配すんな、って
     してないだろうけど。





     送信メール
     跡部景吾
     [件名]Re:Re:Re:
     [本文]
     ゴメンm(__)m38度熱あ
     るから学校休む。ほんと
     ゴメン。治ったら部活に
     混ぜて。





     跡部景吾
     [件名]Re:Re:Re:Re:
     [本文]
     わかった。混ぜるに決ま
     ってるだろ。ほんとに無
     理すんなよ!!





めったに感嘆符を使わない景吾が、メールに使った。しかも2つ。
それに少し驚きながら、私は母親に学校への連絡を頼み、おかゆを食べる。
昨日から何も食べていない。
風邪ひきでもお腹は健康体で、グーグー鳴っている。

弱った心に優しさは痛いくらい。
辛いのは、自分という存在があること。
自信がもてない自分がいること、それが辛い。
部活に行けば、それを目の当たりにするから。
ヒナタは悪くない。ヒナタはいい子だ。
景吾は悪くない。景吾は優しい人だ。

布団の中に潜って、私は夢を見る。
自分に自信がもてるまで、景吾には会いたくない。
私という醜い姿を見せたくない。
そう思った。





窓の外は太陽が広がる世界なのに、私の頭は重い。
ずっしりとした石でも入っているみたいに。
ベッドに食い込んで離れない。
遠くで階段をのぼってくる足音が聞こえる。
2つくらい聞こえる。母親と、誰かの足音。
扉が開いて、母親の声が聞こえる。
それは、重い頭にも届いた。

「跡部くんがいらっしゃったわよ」

返事の有無を確認せず、母親は私の部屋に景吾を入れた。
私は頭から足まですっぽり布団にくるまってしまう。
今、景吾の顔を見たら泣いてしまう、きっと。
布団の中でうずくまっている私を、景吾はどんな目で見ているのだろう。
あの、いつもの優しい目で見てくれているなら、私はすごく嬉しい。
けれど、私は景吾の存在を無視することにした。
失礼なのはわかっているけれど。
素直じゃないんだ。わかってる、私は天の邪鬼だ。





・・・・・・大丈夫か?」

「・・・・・・」

「熱、あんだろ?ちゃんと早く治せよな。・・・・・・がいなかったら、なんか変だ。
 すっげー、変。気持ち悪い。だから、完全に治ったら、早く来いよ」

「!」





いつもの性悪景吾なら、顔を出さない私のことを怒るだろう。
布団を引っ剥がして、意地でも私の顔を出させるだろう。
けれど、布団に触れもしない。本当に、優しい言葉だけかけてくれた。
それに驚いて、私はそっと鼻から上を布団の外に出してみた。
景吾は驚いていたけれど、優しい瞳で私を見てくれた。
景吾の長い腕が私の方に伸びてくる。
でこピンでもするのだろうか、そう思ったけれど違った。
ベッドの側にかがんだ景吾は、その大きな掌で私の頭をなでた。





「無理すんなよ。少しは彼氏ってモンを頼ってもいいんじゃねぇか?俺、のこと守ってやりたいから。
 それに・・・俺はに、たくさん支えてもらっているのに・・・・・・
 なんか、俺がのこと支えてやれないってのは・・・ちょっとツライな」

「ヒナタのことなら気にしなくていい。あいつは、俺の前カノだ。今の俺にはしかいないから。
 ・・・なんか、浮気してるのに、弁解してるみたいな奴だよな」

が信じる、信じないは勝手だから何も言わねぇよ。けど、が来るのを待ってるからな」





そう言うと、景吾は私の部屋から出て行った。
景吾の想いを知って、私は涙を流した。
涙が溢れて止まらない。
布団にくるまって、真っ暗な世界でひとり、涙を流し続けた。
涙が枯れる頃には、太陽は沈み月の世界が広がっていた。

勝手にこうあるべきだと思いこんで、景吾を裏切った。
その罪悪感に、私はなかなか風邪を治して学校へ行きたいと思えなかった。

病は気から、という言葉の通りだ。
こんな気持ちでは、治るはずの風邪も治らない。
私は4日も学校を休んだ。
今週の月曜日から休んでいるから、明日休めば9連休になる。
なんて馬鹿なことを考えている時点で、多少元気なのはわかる。
もう熱も平熱に戻った。36度5分。
学校へ行っても問題は無い。
けれど、景吾にあわせる顔が無くて、私はひとり部屋に篭っている。
授業の遅れを取り戻す為に、私は自主学習を始めた。
ベッドの上で教科書を眺めて、なんとなく数学の公式を覚えたり、英文を読んだり。
そんな時、突然の来訪を知らせるチャイムが鳴る。
そういえば、景吾が来た時、私はチャイムの音にさえ気づかなかった。
今日は意識もはっきりしている。
母親が大声で私を呼んでいる。

ー!!忍足くんと明月さんが来てるわよ。部屋に上げるからね」

忍足とヒナタが家に来ている。
慌てて身なりを整えようと思ったけれど、手元に鏡もくしも化粧品も無い。
私はあきらめて、手ぐしで髪の毛だけ軽く整えておいた。
どんな顔をしているのだろう。人に笑われそうだ。
景吾の時は、鼻から上しか見せていないから。
扉が開いて部屋に入ってくる忍足とヒナタ。
2人の雰囲気が温かく穏やかで、それに安らいだのは言うまでも無い。








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なんかね、いろいろ曜日がおかしいと思うけど、
日曜日に行事があって学校に全員登校したことにしてください(汗
最初考えてたのとストーリーがズレてる・・・・・・けどメインは同じ。
「けごたんが顔を出さないヒロインに優しい声をかけて、頭をなでて帰っていく」
そんなことされたら、泣いちゃうに決まってる、っていうか私、泣くよ(笑


d r e a m ... ?
t o p p a g e ... ?

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