[ fake it !!!! ]










「ねぇ、柊くんってさんと付き合ってるの?」

休み時間の教室。
突然、隣の席の女が尋ねてきた。
答えずにいると女が口を開く。
「この前、手繋いでデートしてたよね?」
しっかり見られていた。
二人でいたことを否定するつもりはない。
あれがデート以外の何かだと言える訳がない。
「あぁ」と肯定すれば「そうなんだ!いつから付き合ってるの?」と質問が飛ぶ。
付き合っているのだろうか、俺たちは。
付き合いたいわけじゃないと言った。ただ、想いは伝え合った。
今、この関係を説明する言葉があるか?
恋人ではない、友達でもない、親友でもない。
説明なんてできない。
言葉を繋げずにいると、女の豆電球に電気が送り込まれたらしい。





「あー、柊くんが一方的に手を繋いで引きずり回した・・・なんてありえないよね」

「偶然会ったから一緒にいたんだけど・・・互いに付き合おうって言ったわけでもないし」

「ふーん、お互いの想いは知ってるけど付き合ってないのね。ある意味、賢いやり方じゃない?
 付き合っていないから束縛することもないし、気ままにやれるっていうか」





女は勝手に納得して、次の授業の英語の用意をしていた。
普通なら納得できないだろう。
両想いなのに付き合っていない。
本当に、今の関係を何と言えばいいのだろう。
言葉が見つからない。

一緒に歩いて、目を見て話して、もっと好きになった。
けれど、好きという想いが大きくなっても、守れる自信はない。
それは、ただの責任逃れだ。
もっと強くなれたらいいのに。
誰かを大切にできるだけの余裕があればいいのに。
今の俺にはないんだ。
「一緒にいたい」という気持ちがないとは言い切れない。
努力で解決できるだろうか。
努力を継続する根性があるだろうか。
「これはできる」という確信が、俺には何もない。

「柊くんのことが好きです。私と付き合って下さい」という言葉が耳に入って現実に引き戻される。
目の前には見慣れない女。国府津の制服。
「バスケットをしている姿に憧れていました」と小さな声が聞こえた。
放課後の教室、ジャンケンで負けた俺は戸締りをしてから部活に向かわなければならない。
参ったな。
「俺、好きな奴、いるから」と言って切り抜けようとした。
教室から出ると、彼女は俺の後を追って教室を飛び出した。
そして、戸締りをする俺が無防備だということに気づいて、手首をぎゅっと掴んできた。





「知ってる。好きな子がいるってことも、その子が柊くんのことを好きだってことも。
 でも、付き合わないのはどうして?付き合えないの?傷つけるのが怖いから?
 傷つけても構わないよ、私のこと。一緒にいて楽しくなれるように頑張るから・・・」

「もういい。それ以上言うな。俺は、誰かと付き合う気はないから」

「でもっ、さんと手を繋いだのはどうして?好きだからでしょ。それでも付き合っていないって言うの?」

「・・・・・・逃げてるから、それでいいんだ」





逃げているんだ。
と向き合うことに。自分と向き合うことに。
ずっとごまかしてきたけれど、俺が逃げているということは消えない事実なんだ。
想いを伝えて逃げているのはどうしてだろう。
失うのが怖いから。
欲張って、欲しいものすら手に入らなくなったら、終わりだ。
これ以上、何も望まなければいいのに。
人間はうまくいかない。

部室へ向かった。
校舎の正面玄関で、にすれ違った。
「部活?いってらっしゃい」と笑顔で言って、手を振ってくれた。
俺の好きな笑顔を見せてくれたのに、心に響かない。
逃げないで立ち向かうにはどうすればいい?
誰も答えは教えてくれない。
自分で見つけなければ。
考えれば考えるほど見つからなくなる答え。
時間をかけて見つかるのならばそれでいい。
もし、答えが見つかったときにが傍にいなくても。

本当に、そう思っているのだろうか、俺は。
自分のことは、いちばん自分が理解できない。







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悩む少年、みたいな。
ヒロインちゃんの笑顔が心に響かないのは、前の話を受けて
ヒロインちゃんも100%のスマイルを送り出していないからです。
次、完結しません(汗)もうちょっとかかるかな。

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