[ fake it !!! ]










特に約束もしていないのに会えるというのは、偶然なのか、奇跡なのか、運命なのか。
そんなことはわからないけれど、嬉しい以外に言葉はない。
休みの日に、本屋に行って雑誌を立ち読みしていただけ。
隣に立って雑誌に目を通すお兄さんは、本に集中してしまい持っていた紙袋を落としてしまった。
何気なくお兄さんに目をやると、柊くんだったものだから驚いてかすれた変な声を出してしまった。
慌てて口を押さえても、奇声は空間を伝っていくのだ。
「おはよ」と照れ隠しに小さな声であいさつしたら、柊くんは「おう」と返事をして落とした紙袋を拾った。





「今日は部活ないの?」

「あぁ、今日は休み。は?」

「あ、うん。友達と買い物に行くつもりだったんだけど、風邪引いたからキャンセルされちゃって。
 仕方がないから一人でブラブラしてるの」

「へぇ・・・。ま、でも、今日は・・・」

「柊くんに会えたから、そのほうがよかったかもしれない」





そんな大胆発言をしてみれば、柊くんは少し笑って頷いてくれた。
立ち読みタイムは終了。
毎月買っている雑誌だけ手に取り、レジに並んだ。
柊くんは本屋の外で待っていてくれた。
私の次の予定は、CDショップに行くこと。
東本くんと会った帰りの柊くんは、「特に予定はないから」と言って私についてくる。
柊くんとふたりきり。まるで、デートのよう。
けれど、付き合っているわけではないから、友達と一緒に歩いているのと同じ。
平常心を装っているけれど、ごまかしは効果なし。
「無理することないだろ」と言われて、私の手は柊くんの手に包まれる。
あぁ、これはもうデート以外に表現できる出来事でなくなった。

CDショップに行けば、試聴機巡りをする。
柊くんは黙って私の後ろに立っている。
自分の好きなものがあればそこに行けばいいのに、行こうとしないのだ。
行かないのは、私に気を遣っているからだ。
変な気を遣われるのは嫌だ。
ヘッドホンを元に戻して、柊くんを見た。
口を開こうとしたら、先に柊くんが口を開いて私を遮った。





「それ、CD持ってるよ。どう?」

「え?持ってるの?すっごくよかったよ!私、こういうの大好きなの」

「意外だな。はわかりやすい音楽が好きそうな気がしたから」

「確かに、わかりやすい音楽の方が入りやすいよ。
 でも、こういうのは後からフツフツ湧き上がってくるからハマると抜けられないの」





意外と音楽の趣味が似ていると発覚。
嬉しくて笑顔になってしまう。
二人で試聴機巡りを続けた。
クラスメイトが後ろを通り過ぎたような気がしたけれど、はっきりと確認はできなかった。

共通の趣味があると話が弾む。
CDショップで1時間以上試聴と会話を繰り返していた。
レジコーナーの壁に掛けられた時計を見れば、もう1時だった。
昼ごはんの時間だ。
まだ話したいことはたくさんある。
食事に誘えば、柊くんは「行こうか」と言って、私の手を取る。
とても幸せな時間だ。

食事をしながらたくさん話した。
食べ終わった後にもたくさん話した。
どんどん、積もっていく。
「柊くんと一緒にいたい」という想いがあふれて止まらない。
付き合いたいという気持ちはなかったはずなのに。
見ているだけで十分だと思っていたのに。
一緒にいることが可能になると、もうごまかせないんだ。
本当はどう思っているのかということが、簡単にわかってしまう。

「一緒にいたくない」の否定が「一緒にいたい」だとは思わない。
逆もそうだ。
この気持ちは「一緒にいたい」だから、柊くんの重荷になるだろう。
好きになるということは難しい。
想いのバランスがうまくとれない。
物体として形状を持ってこの世に存在するものじゃないから、うまく扱えないんだ。
自分のものだけれど。

このままでいいのだろうか。
黙って、この気持ちを隠していけばいいのだろうか。
このままでいいんだ。
知らないふりでごまかすことができれば上出来だ。
深入りしないようにしよう。
好きな人だ。柊くんが大切な人に違いはない。
けれど、無理なごまかしで友達と思えば、それ以上何も起こらない。
音楽の趣味が似ているから、気の合う友達と思うことは可能だ。
心の扉を、少しだけ閉じた。
そうすることで、円滑にことが進むと信じていたかった。







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深入りすると抜け出せなくなって困っちゃう。
だからといって距離を置くのも難しいし。
人間って大変〜(笑)

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