言ってどうにかなる問題じゃないのはわかってる。

気持ちを吐き出すことは、ただの欲求なんだ。










      [ fake it !! ]










なんとなく、が俺のことを好きだということはわかっていた。
ただ、確信は持てなかった。
だから、どうなる、という問題じゃない。
俺がのことを好きである時点で、これは両想いというやつなんだろう。
「両想いになれば付き合う」という法則を考え出したのは誰だろう。
今の俺では、付き合ったとしても、のことを守ってやれない。大切にできない。
人間はつみきのおもちゃじゃないから。

あのとき、帰り際のを追いかけて吐き出した気持ちは、嘘じゃない。
けれど、収拾がつかなくなった。事を荒立てただけだ。
あれから、とは話していない。
目も、合わせていない。

潮風をあびて、国府津の海を眺めた。
あのとき、気持ちを全部吐き出したはずなのに、心の中はわだかまりで濁っていた。
むしろ、吐き出すことは俺にとってマイナスだったのではないか、そう思うくらいに。
そんな俺の気持ちにお構いなしな国府津の海。
当たり前だ。
国府津の海は俺ではないから。
俺は、俺だけ。
は、だけ。代わりなんて、ないんだ。

気配を感じて振り返った。
俺の座っている石段の最上部にが立っている。少し、困った顔で笑っていた。
ゆっくりと、石段を下りてきた。
は俺の一段上で止まって、腰を下ろした。
この距離が、俺たちの関係を物語っていると思う。
隣には並べない。ある一定の距離までしか、近づけない。





「また、サボり?」

「あ・・・あぁ」

「サボってたら先生に怒られない?」

「まぁな。乗り気じゃないときにやっても、しょうがねぇからな」

「そうだよね」





黙り込んでしまった。沈黙だけが流れる。
さっきから、困った顔のしか見ていない。
それほど、俺といるのは苦痛なのか?
なんとなく、が俺のことを好きだと思ったのは、俺の勘違いなのだろうか。
濁った心と、いろんなものが混ざって濁った頭の中。
俺はどうしようもない奴だ、そんなことを思った。

「あ、あのっ」と詰まりながら言うは、そっと一段下りて俺の隣に座る。
かばんの中をゴソゴソあさったと思えば、の手にはプリッツの箱が握られていた。
まだ未開封のそれを開けて俺に差し出すは、久しぶりに笑顔を見せてくれた。
微笑むだけで、周りの空気が桃色に色づく感覚。
久しぶりに感じたこの空気。
と一緒にいるときに感じる、この優しい空気が好きだ。





「プリッツ、きらい?」

「いや。ありがとう」

「おいしいよね、ナチュラルで」





自然と話せたのは、のおかげだ。
俺は何もしていない。
給食の牛乳を自分からこぼしておいて、片づけができない小学生のようだ。
情けなくてため息が出る。
そういう俺のひとつひとつの仕草に、は敏感な反応を見せる。

「疲れてるの?ムリしちゃダメだよ」優しい声に癒される。
心配ばかりかけている。
迷惑ばかりかけている。
自分の欲求を満足させることもできず、ただ吐き散らしただけ。
心の中に留めておくのが限界だった。
それくらい、好き、だというのか。
本当はよくわからない。
隣にいるは、おいしそうにプリッツを頬張る。





「知ってると思うけど、私、柊くんのことが好きなの」

「・・・」

「でもさ、付き合いたいとかそういうのはないんだよね。
 ただ見てるだけで、たっくさん元気をもらえるから、それでいいやって思っちゃうの。
 もっと積極的になれって言われるけど、そう思えないのは『好き』って気持ちが足りないのかなぁ」

「俺も、同じ」

「ほんと???」





時間が経って、気持ちがほぐれてきた。
お互い緊張していたのだと思う。
気持ちが通じて、笑顔がこぼれた。
どうでもいいことばかり話して、核心はつかなかった。
「好き」という気持ちがあることだけは確かだから、それでいいのだ。
それ以上、何かを求めるつもりはない。俺も、も。

プリッツも底をついた。
何気なく言った「帰ろうか」の一言。
相手を促す言い方。決して、一人で先に帰ることを意味しない。
声を出さず、頷いて返事をする
立ち上がった俺は、の手を引いて起こしてやる。
手を離したら、すぐに繋がれた。
の小さな手が、俺の手をしっかりと握っていた。







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こんな高校生いません、って言われたらどうしよう(笑)
こういうのも、アリだと思うのは私だけ?

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