ごまかせないよ。

ごまかすつもりもないよ。










      [ fake it ! ]










「なんで、はそんなにわかんの?俺のこと」

「へ?」





「墓穴を掘る」とは、まさにこのことだ。
柊くんは、私をまっすぐ見ている。
もうごまかせないよ。
柊くんも、気づいてる。確信を持っている。

毎日見ていたら、気づくことがたくさんある。
当たり前のことだ。
けれど、毎日見ているなんてことはあまりない。
だから、毎日見ているというのは通常ではない。異常なんだ。
悪い意味ではなくて、「特別な」という意味で、通常とは異なる。

ごまかすつもりはない。
けれど、付き合いたいという感情が全面に押し出されているわけじゃない。
私は、ただ柊くんのことが好きなだけ。
見守っているだけで十分。
それは、ただの憧れかもしれないけれど、キラキラ輝いている人と一緒にいて幸せになれない人なんていないから。
だから、私は柊くんと一緒にいたい。
見ているだけでいい。
話せなくても、柊くんの姿を見られたらいいんだ。





「俺は・・・・・・」

「ん?」

「わかってくれて嬉しいけどな」

「あ、うん。理解してもらえると嬉しいよね」





ニッと笑えば、柊くんはほんの少しだけ笑って先を歩いていった。
私は、トコトコと柊くんの後姿を追いかける。
教室に戻っても、柊くんと話すことはなかった。
「ごまかせたのかな?」と思ったけれど、それはありえない。
柊くんは、頭の回転が速いから鈍感じゃない。
私が柊くんのことをスキだってことくらい、お見通しだ。

ずっと、そわそわしていた。
何かを期待しているわけでもないのに。
多分、怯えていたんだ。
柊くんから嫌われることに、怯えていた。
バカな私は、自分のことしか見えなかった。
見ていなかった。見ようとしなかった。
自分さえよければいいと思っていたんだ。

放課後は友達と図書室に行くことが日課。
珍しく宿題がないので、私は目に付いた小説を読んでいた。
違うクラス友達は、私の隣で必死になって数学の宿題と格闘している。
小説は、興味深い内容だった。
もっと世界に目を向けないといけない。
2時間の格闘の末、宿題をやり遂げて疲れ果てた友達の手を引いて、私は学校を出た。
まだ、体育館から声が聞こえた。

駅まで歩いた。
潮風が吹いてきた。
なんとなく、進み行く方向ではない方向を見た。
驚いたことは、そこに柊くんがいたこと。
道路の反対側、車が通り過ぎる向こうに柊くんがいる。
手を振った。
柊くんは、手を挙げて合図してくれた。
私は満足して、駅へと向かう。
改札をくぐると名前を呼ばれた。





!」

「柊くん?」

「今、帰り?」

「うん。もう帰る。柊くんは、部活じゃないの?」

「サボってた」





柊くんがサボるなんて珍しい。
そういう気分になるときもあるんだなと思った。
「じゃあね」そう言って、別れようとしたら、柊くんに先を越された。
私は、今、何と言われた?
耳に入った言葉は何?





「俺は・・・のことが好きだ」

「へ?」

「言いたかったことはそれだけ。そのこと、ずっとサボってる間に考えてたんだ」

「え?」





爆弾を受け取ってしまった。
いつ、爆発する?
タイムリミットはいつ?
私は、呆然としていた。
柊くんの背中が見えなくなるまで、立っていた。







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久しぶりの長編です。仁成さんで。
多分、ごく普通の話になります。
何のおもしろみもない・・・ありきたりなものにならぬよう努力する限り。

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