[ レ ン タ ガ ー ル 3 ]





「もう一踏ん張りするか」
そう言って、レノさんは川の上流に向かって歩き出す。
私もそれに倣って歩き始めた。
頬に手を当てる。
まだ、熱い。顔がほてっている。

乙女の髪にキスをする。
まるでおとぎ話の国の王子様じゃないか。
とてもレノさんは王子様に見えないけれど。
そんなことを思っていたら、レノさんは私を振り返ってしかめっ面を見せる。
私の考えていたことが伝わったのか?

そんなことより、私はお姫様なんてガラじゃないよ。

普通のスニーカーでも歩きにくい山道。
地面を踏みしめると、森の香りが漂う。
お姫様には不釣合いな場所だ。
白雪姫なら別なんだろうけれど。

気持ちを引き締めていなかったのが悪かった。
私は足を滑らせて転んでしまう。
着地失敗。
顔面から地面へダイブしてしまった。
森の土が頬にへばりついている。
レノさんは呆れた顔をしていた。





「そんなところで転ぶか、フツー?」

「レノさんみたいに俊敏とは程遠いんですよ、一般市民は」

「はいはい、っと」





ヘラヘラと笑っていたレノさんが、急に表情を変えた。
私はまだ地面に這いつくばったまま。
立ち上がろうとしたら、身体が宙に浮いた。
茶色くてふさふさした毛に触れていた。
イノシシ?クマ?

得体の知れない生き物の背にいる私は、振り落とされないようにするのが精一杯で状況がつかめていなかった。
その精一杯も切れてしまい、私は地面に叩き落される。
体が軋んだ。
動きたくても動けない。
私を運んだそれが、こちらに向かっている気がする。
今度はきっと背に乗せて走ってはくれないだろう。
私を踏み潰しにくる。

覚悟なんて決められない。
まだ生きたいよ。

!大丈夫かー???」
あまり心配してないような声が聞こえた。
そして同時に、轟音で耳が潰れそうになり、爆風で視界が遮られる。
腕で顔をガードした。
少しだけ開いた目には、爆風の中、届かなかった指先だけが見えた。
私に、届かなかった。
私は、手を伸ばせなかった。
爆風に吹き飛ばされた私は、しばらく気を失っていた。





心地よい振動が体に伝わる。
頬に何かがあたってくすぐったい。
赤い、色。
レノさんの髪。
気づけば、私はレノさんにおんぶされていた。
私の動きに気づいて、レノさんは歩みを遅くした。





?やっと気づいたか」

「どう、して?」

「なんかすげー爆風で吹き飛ばされてさ。大丈夫か?」

「う、ん、生きてる」

「なら、よかったぞ、と」





レノさんの鼓動が聞こえる。
私は目を閉じた。
人の鼓動がこんなに心地よいのははじめてだ。
波長が合うのかな。
人のぬくもりを、かみ締める余裕もなかった。
メテオに星を破壊される危機に迫られ、ライフストリームが星を守ったかと思えば、星の再建中に星痕症候群が広がり。
父と恋人は、星痕症候群で亡くした。
希望をなくしたらだめだ、前向きにならなくちゃ星痕に冒されると言われてきた。
母と二人でだましだましやってきた。
久しぶりに、大粒の涙がとまらなくなった
ライフストリームが星を守った日から、弱音は吐かなかった。
ううん、吐けなかった。
吐いたところで、誰も受け止めてくれない。

嗚咽が漏れる。
くっついているから、レノさんに聞こえないわけがない。
レノさんは足を止めた。
私を木陰に下ろす。
私は、膝に顔を埋めて泣いた。
私が泣き止むまで、レノさんは黙って肩を抱いていてくれた。







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むー…
もうコメントできない。。。

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