[ レ ン タ ガ ー ル 2 ]





ヘリに乗せられ、あれよあれよと言う間に運ばれた地、ウータイ。
深い森の中に入った私たちは、特に構えもせず自然体のまま小道を歩いた。
レノさんはニヤっと笑って「熊退治」と言い、右手に持っているロッドを振り回した。

レノさんの背中を見ながら、私は歩く。
あまり背は高くないけれど、細いように見えてがっしりとした体。
束ねた真っ赤な髪。
時々、後ろにいる私を振り返る。けれど、何も話さず前を向きなおす。

やっぱり、怖い、な。
持っているオーラが怖い。
だから怯えていて気づかなかった。
周りを囲まれていることに。

急にレノさんが足を止めたので、私も立ち止まる。
そして、やっと気づいた。
木陰に誰かいる。
一箇所だけじゃない、どこもかしこも。





「囲まれたな」

「全然、気づかなかった・・・」

「ヘリを降りたときから、視線は感じていたんだが・・・」

「・・・が?」

がいるから注意力散漫なんだぞ、と」





レノさんの謎発言に、私の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだ。
けれど、すぐに頭の中をクリアにする。
今すべきことは、この状況からどう脱するか考えること。
レノさんのオーラの色が変わり、私は驚いた。
「ここから動くなよ、と」その一言に、ただ頷くしかなかった。

レノさんは一点目指して駆けていく。
木陰にいたのは野生のモンスターたち。
大半がレノさん目がけて飛び掛かっていくけれど、残った少数派は私を狙ってきた。
イリーナさんから手渡された小型の銃。
銃なんて使ったことない。モンスターと闘ったことなんてない。
怖い、けれど、何とかしなくちゃ死ぬ。
無我夢中で銃をぶっ放す。
鼓膜が破れるかと思った。
爆音と共に、私の周りにモンスターが倒れていた。
腰を抜かしてその場にしゃがみこむ。
レノさんはどうなったのだろう。
振り返ると、けろっとした顔でロッドを振り回してニヤっと笑うレノさんがいた。

「よくできました、っと」そう言って、レノさんは私の頭をポンポンと叩いた。
私は苦笑いしかできなかった。
気が抜けて、左目から涙がこぼれた。
私が手でぬぐうより先に、レノさんの指先が私の頬に触れた。
驚いて、体を強張らせてしまった。





「悪かった。一般人連れてるってこと、すっかり忘れたてたぞ、と」

「あ、や、いえ・・・すみません、役立たずで」

「銃ぶっ放せるなら、それで十分」





人手不足だから、一般人でも欲しかった。
けれど、臆病者はいらない。
少しでいいから使えそうな人間がほしい。
それで、ヒーリンまで来た私を捕まえた。
けれど行動力だけじゃどうしようもない。
きっと、レノさんの足を引っ張ってしまう。

私の足取りは重い。
大変なところへ来てしまった。
命はないと思ったほうがいい。
母さん、ごめんなさい。
散歩してくると言って、死体が戻ることになって。

頭上を遮るのは、森にいる木々。
時々、ヘリコプターや鳥が飛び交う。
私はレノさんと、地を這う。
森を横切る川のせせらぎに癒された。
川に手を伸ばそうとしたら、レノさんに腕を掴まれる。
更に、口を手で覆われ、私はズルズルひきずられて木陰に連れていかれた。
レノさんが、何かの気配を感じたらしい。
異常が起きていることはわかった。
それでも、レノさんは私の口を覆ったまま、腕を掴んだまま。
私の背中には、きっとレノさんの上半身が密着していると思う。
レノさんの体温がじんわり伝わってくる。

しばらく息を潜めていると、川が赤黒い色に染まっていった。
私は息をのむ。
血だ。
その血に混じって、黒いものが流れてきたのが見えると、レノさんは一目散に川辺へ走っていった。
く、ま?
今回の獲物が、どんぶらこどんぶらこと流れてきた。
私はのろのろと川辺へ向かう。
レノさんは、ロッドと魔法をうまく使いこなして熊を川から引き上げた。





「これが、目的の熊ですか?」

「あぁ、ニビ熊のしっぽ」

「お母さん、だったのかな・・・」

「だったら近くに子どもがいるかもな。気をつけるぞ、と」





一体何に使うのだろう。
獲物をわりと雑に取り扱うレノさん。
尾を切り落とし、袋にしまった。
レノさんが川の水でダガーをすすいでいるときに気づいた。
レノさんの手に、血がついている。
どこかについた血をぬぐったような跡。
そよ風に、髪がなびく。
そのとき気がついた。
レノさんのこめかみに、少し傷が入っている。血が薄っすら滲み出している。
救急セットなんてもっていない。
手持ちのポケットティッシュを一枚出して、レノさんに近づいてこめかみに当てる。
レノさんは驚いて目を丸くしたけれど、私にされるがまま、おとなしくしていてくれた。
ばんそうこうで止血になればいいのだけれど。

ばんそうこうを貼ったとき、レノさんの髪に触れた。
男の人にしては細くてさらさらした髪。





「さらさら、ですね」

「そりゃどうも。ほどじゃないけどな」

「そうですかぁ?」





少し間の抜けた返事をすると、レノさんは私の髪に触れる。
肩より少し長い私の髪は、耳の下で一つにまとめて前に流している。
レノさんはその房を自分の手のひらに広げ、口付けたのだ。
恥ずかしくて顔に血が上る。
真っ赤になった私の顔を見て、レノさんは笑った。







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つづきます。
レノたんの髪の毛、さらっさらなのが希望です!!!


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