[ レ ン タ ガ ー ル 1 ]





こんな世の中なのに、と言われるだろう。
こんな世の中だからこそ、自分の足で歩いて、世界を確かめなくちゃ!
そう思った私は、毎日歩いて世界を目に焼きつけている。
今日は、山の方へ向かった。
ヒーリンと呼ばれるそこは、私にも周りの人たちにも馴染みのない場所。
子どもの頃に味わった、ドキドキ、ワクワクのような感情が私の中で渦巻いている。

途中で休憩しながら、山道を登った。
道路は舗装されていて、車なら頂上までひとっ走りなんだろうな。
けれど、車なら気づかないものに気づくことができる。
道端に咲いた花に目が留まった。
何という名前の花だろう。
あの人なら知っているのだろうな。
あの、ミッドガルの教会にいた、花売りのお姉さん。
今では、星に還って私たちのことを見守っていてくれる、と誰かが言ってた。

花をひと撫でして、私は足を進める。
しばらくして、白いシンプルな建物が見えた。
ヒーリンには、人が住んでいるのだ!
誰がこんな山奥に住むのだろう。
有名人が隠れ住んでるのか?
病気の人が療養しているのか?
興味本位で私はその建物に近づいた。
階段を上って、玄関と思われるところの扉に触れようとしたとき、殺気を感じてその場に伏せた。
頭を抱えてしゃがんでいると、扉が少し開いた。
「・・・どちら様?」と金髪の女性がこちらを伺っていた。
答えられずにいると、「ノラネコが迷い込んだか?」と言いながら真っ赤な髪の男性が階段を上ってきた。

は さ み う ち だ!

服装を見ればわかる。
泣く子も黙る、タークスだ。
逃げたところで、捕まるだけ。
私は両手を挙げて、「降参です」と伝えた。
タークスの二人は、首をかしげていた。





「別に捕って食おうってんじゃねぇんだから」

「そりゃ警戒もしますよ。レノ先輩、捕って食いそうな顔してますもん」

「どんな顔だよっ、と。それより、あんた何者?」

「あ、あの、ただ探検してたらこの建物に行き着いたので。
 それで、その、興味本位でどんな方がお住まいなのかと思いまして」





タークスのアジト。
これ以上、詮索する必要もない。詮索することは命に関わる。
そう結論付けて、私はヒーリンの建物から去ろうとした。
けれど、赤毛の男性に道を塞がれる。
「まぁ、せっかく来たんだ。茶でも飲んでいけよ、よ」と拍子抜けするようなことを言われた。
そして、そのまま背中を押されて、建物の中へ押し込まれる。
室内も、白一色。
まるで療養所のよう。
ソファのあるリビングのような場所へ案内され、私はソファの端っこに腰掛けた。
金髪の女性、イリーナさんが、紅茶を淹れてくれた。
砂糖とミルクを入れて、マドラーでかきまぜる。
それを見て、赤毛のレノさんは呆れたように呟くのだった。





「よくそんな甘いモン飲めるな、と」

「お子ちゃまはストレートティーもブラックコーヒーも飲めないんですー」

「あんた、お子ちゃまって年でもないだろ」

「あんたじゃないです、って立派な名前があるんです!
 それに、二十歳はあなたから見たらお子ちゃまなんじゃないですか?」





二十歳と言えば、レノさんは驚いていた。
そんなに老けて見えるのかな、私。
そういうレノさんは、年齢不詳。
ブラックコーヒーの入ったマグカップを手に持ち、壁にもたれていた。
じっとレノさんのことを見ていたら「俺に惚れたか?やけどするなよ、と」と聞いているこちらが恥ずかしくなるようなことをさらっと言ってのける。
イリーナさんは冷ややかな視線をレノさんに送っている。

白くてきめ細やかな肌。対照的に真っ赤な髪。綺麗な顔立ち。
一目惚れする人もいるだろう。
けれど、少し怖い。
身にまとっているオーラが怖いんだ。

しかめっ面のイリーナさんは、レノさんを部屋から追い出し、真剣な表情で私に向き合った。
まだレノさんは、部屋の前にいると思う。
気配を感じるから。





「ここまで来る人を初めて見ました。さん、その行動力を私たちに貸していただけませんか?」

「え?」

「私たちは、人手不足に悩んでいます。
 さんの身を危険に晒すことにもなりかねますが、できる限りあなたのことは守ります」

「あ、や、私の力でよければお貸ししますけれど・・・」

「本当ですか!嬉しいっ!」





顔をくしゃくしゃにして笑うイリーナさんを見ていると、こちらまで嬉しくなる。
ただ、すぐに笑顔を消して、不安そうな表情を見せるのが気になる。
「ある意味、さんの身を危険に晒すような気がしてならないのですが、レノ先輩と一緒に仕事をしていただきます」
ある意味とはどういう意味だろう。
そんなことを考えながら、私はぼんやり部屋の扉を見た。
レノさんの気配は感じなかった。







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一般人がタークスというかレノさんと一緒に仕事するお話。
ノリで長編、いや中編、もしかして全2話とか…
今後の展開はまったくもって考えてません。笑

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