[ ぼ く の か わ り ]





兄は妹に何を送る?
何をプレゼントする?
俺にはわかんねぇ。
何を送れば喜ぶ?
何をもらえば嬉しい?





「だーっ!!!もうっ!!!わかんねー」

「うるさいぞ、徹」






バレンタインデーからもうすぐ1か月経つ。
白い日という名のホワイトデーが待っている。
バレンタインデーにプレゼントをもらった男がお返しをする日。
部室で制服に着替えながらへのお返しを考えていた俺は、途方にくれて大声をあげた。
もちろん、隣で着替えていた高柳にたしなめられる。

期待されているから、期待に応えられるようにしたい。
ただそれだけを思っていたはずなのに。
「押してダメなら引いてみろ」と誰かに言われたのだろうか。
は1週間ごとに「俺に接触しまくる期間」と「俺に全く接触しない期間」をきっちり設定しているようだ。
さすがに俺も参ってきた。
と同時に、に「妹のような」という感情と「恋心に似た」感情を持っていることに気付いた。
兄妹なら家に帰れば一緒にいられる。離れていても特に恋しくはない。
けれど、離れていると少し恋しいような、会いたくなるような。

喜んでほしいと思えるのは、少しでも恋心があるから・・・か?
万人に喜びを!そんなことを考えるか、俺が?
下心はあるか?
考えれば考えるほどわからなくなる。





「考えすぎだろ、徹は。もらったものにお返しするのは一般的なこと」

「でも何をあげればいいかわかんねーっての!」

「無難に消えてなくなるお菓子とか?」





スーパーも百貨店もどこもかしこもホワイトデー特集。
手ごろな値段のものを手に取りレジに並ぶ。
正直言って、バレンタインやホワイトデー、クリスマス、もうイベントごとが面倒になってきた。
何でこんなに悩まなくちゃいけないんだ、俺が???

運悪く、ホワイトデーの週はの「俺に全く接触しない期間」
こちらから捕まえない限り、お返しを渡すことはできない。
いつ捕まえる?
朝?昼?夕方?朝練前?朝練後?昼休み?部活前?部活後?
悩みばかり増える。
だったらお返しなんてしなければいいじゃないか。
そういうわけにはいかない。
いつももらいっぱなし、たまにはお礼をするべきだろ?





「いや、俺に言われても・・・いつも礼はするし。徹はしてないとか?」

「ちがうちがうって、そんなことねぇよ。あーもー!!!どんだけ俺のこと振り回すんだ?」

「徹が勝手にぐるぐる回ってるだけだろ」





時が止まったかと思った。
俺がぐるぐる回っているだけ???
確かにそうかもしれない。
は「人を好きになって、想えることが幸せだからそれでいいの」と言った。
全く振り回していない。
むしろ、控えめなくらい。
だから、俺に「好きだ」という言葉をバレンタインデーまで伝えなかったんだ。

俺の妄想、走りすぎ。

がくっと項垂れた。
何時何分に渡すことがどうでもよくなってきた。
当日に渡せればそれでいい。

白い日、当日。
朝からに会った。通学途中の道で。
そして「おはようございます!」と俺に声を掛けて俺の隣に並ぶのだ。





「今週は俺に接触しないんじゃ・・・」

「え?バレてました?高柳センパイが『押してダメなら引いてみろ』っていうんでー」

「あいつっ!でも、なんで今日は?」

「まぁ、ね、今日は、ホワイトデーとかいう日なんで、センパイと会話したほうがいいかなって」





えへへ、と子どもっぽく笑う
つられて俺も笑う。
かばんの中から以前買ったお返しの品を探し出してに渡す。
「ホワイトデーだから」と言えば「マジっすか!?うわー、開けていいですか?」と目を輝かせて俺に尋ねる。
頷けばは中身を確認する。
中には、クッキーとクマのぬいぐるみがセットになったものが入っている。
「クマさん!」とは大声をあげた。
かなり年の離れた妹が俺にできたみたいだ。
小学生の女の子よのうにはしゃいでいる。





「俺さ、やっぱ、まだよくわかんねぇからさ。妹ができたみたいな、そんなふうにしか感じられないし」

「え、妹ですか?私が?・・・そんなふうに思ってもらえれば光栄です」

「まぁ、あれだ。そのクマのぬいぐるみが俺だと思ってちょっとガマンしてて・・・」

「えー、センパイだと思って待ってたらいいんですか?やったー」





俺の考えていることは、途中まで発すれば伝わってしまった。
今すぐ恋心100%になるわけじゃない。
でもきっと、そうなると思うから、それまで淋しさはクマのぬいぐるみで紛らわせてくれれば。







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学ちゃん、おせっかい。笑
どうまとめるか苦労したけど、こんな感じで。
自分で泥沼に飛び込む徹くんでした。

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