なんとも言えないシチュエーションだな、そう思った。





      [ 大 切 な こ と 1 ]





先週末、高校3年の途中であるにも関わらず、編入生がやってくることを聞いた。
噂では、そいつは女でローカル雑誌のモデルだとか。
モデルの仕事を辞めて、勉学に励む為にここに編入したらしい。
全部、から入手した情報だ。
女はこういう情報に目が無いというか、情報網は広いな。
俺の、前の彼女はローカル雑誌のモデルだ。
そんなことを久しぶりに思い出して、俺は複雑な気持ちになった。
好きだった、本当に好きだったはずなのに、俺はすがるように甘えてくるあいつに耐えられなくなった。
比べることは悪いことだけれど、は、正直言うと甘えなさ過ぎるから、時々怖くなる。
それだけ頼る必要が無いほどが強いのか、俺が頼りないのか。
少しくらい甘えてくれないと、俺が何の為にいるのかわからなくなる。
頼っていもらう為にいるわけでもないけれど、互いに力になりたいと思うのが普通だと思う。





月曜日、ざわついた教室。
遅刻した奴が例の編入生を見て、一目惚れするくらい美人だと騒いでいた。
それを聞いて今にも教室を飛び出そうとする奴等ばかりで、俺はあきれかえった。
たかがとは言わないが、女ひとりを見たいが為に授業中に教室を抜け出そうとするか?
向日まで、俺も見たいなーと上の空でいる。
騒ぎの張本人には、たしか彼女がいるはずだ。
彼女に不満なのか、それ以上の女なのか。
休み時間になると、瞬時に教室から人が消えてしまった。
男も女も皆3つ離れた教室にむらがっている。
そこはのいる教室。と同じクラスの忍足は、わざわざ俺の所までやってきて報告する。





「なぁ、跡部も聞いたやろ、編入生のこと」

「美人なんだろ?」

「興味津々やんか、自分、ちゃんがおるのに。浮気でもするんか?」

「興味あるとは言ってねぇだろ、バーカ」

「まぁ、ええわ。顔はかわいいしスタイルもええで。さすが元モデルやな。
 明月ヒナタっつう名前やねんて。ちゃんの隣の席やから、2人めっちゃ仲良うなっとるわ。
 それにしても、跡部様のクラスやのにガラガラやなんて、珍しいなぁ」

「マ、マジかよ・・・・・・」

「はァ?何言っとん、自分」





明月ヒナタ、俺の幼馴染で、前の彼女。
別れたきり、ほとんど会っていない、話もしていない。
今、俺にはがいる。けれど、はヒナタのことをどう思うだろうか。
2人が仲良くやっているということを聞くと、余計難しい。
なら大丈夫だろう。そう信じたい。
それに、俺はのことが好きだ。だから、何も恐れることは無い。

そう思ったけれど、確実にヒナタの存在が俺たちの歯車を狂わせた。
狂わせてしまった、狂ってしまった。
狂った歯車は、人の手でもとの噛み合わせを得ることができるだろうが。





昼休み、俺は今日の部活のメニューについて打ち合わせをする為、職員室へ向かっていた。
つい、いつもの癖でのいるクラスの前を通る。
急に扉が開いて、中から女が2人でてきた。
俺は、なんとも言えない引きつった顔をしていただろう。
とヒナタが揃って出てきた。
俺を見て、2人が声を揃える。「「景吾!」」と。

は驚いた顔で「景吾の知り合い?」とヒナタに尋ねていた。
ヒナタは少し小さな声で、けれど堂々と「幼馴染で、元カレ」とはっきり言った。
の驚いた顔、今でも忘れない。
目で俺に問いかけてきた。
俺は「あぁ」と答える。俺の目が宙を彷徨っていた。

「景吾の前カノってヒナタだったんだね。・・・納得できるかも」
どんな意味を込めていったのかわからないけれど、の声のトーンが低かったのはよく覚えている。
「またね」とさらっと流してヒナタはを腕を引いていった。
俺は職員室へどうやって入ったか覚えていない。
こうなることはわかっていた。
何も、恐れることは無いのに。無いはずなのに。

授業中、上の空だったのは言うまでも無い。
放課後、掃除当番に当たっているのにも気づかず、部活に向かおうとして向日に呼びとめられた。
俺は深呼吸して、気持ちを落ち着かせた。
ただ、俺が動揺しているだけにすぎない。
きっと、その気持ちが伝われば、も怯えてしまうだろう。
俺が、しっかりしなくちゃいけないんだ。
俺の好きな人はだけなんだということを、きちんと伝えないと。





いつも通り部活は始まった。
レギュラー陣はどいつもこいつもヒナタの話ばかりしている。
俺は聞かないようにしていた。けれど、同じ場所にいる限り耳に入ってしまう。
ヒナタは、確かに見た目から言えば文句などひとつも無いくらい整っている。
身長も低すぎず、高すぎず、顔も悪くなく、スタイルも良くて・・・・・・。
だって十分負けてはいない。けれど、元モデルとテニス部マネージャーでは差ができてしまう。
ただ、ヒナタの性格に難点があって、俺はそれに耐えられなかったんだ。
それを受け止めることのできる奴もいるだろう、例えば・・・忍足とか。

腕を掴まれて、そのままずるずる引きずって歩くことなんて出来ない。
一緒に歩ければいいのに。
あの時、何度思っただろうか。





「はぁ・・・・・・かわいいわぁ、明月さんって」

「侑士がおかしいって、なぁ、なぁ、跡部!」

「黙れ」

「やっぱ、甘えたがりな子はかわいいな。あーいう子が彼女にほしいわ」

「頑張れよ、侑士!俺、精一杯応援するからさ!」





俺にはヒナタは重荷だったんだ。
は、どうだ?
今は、重荷じゃない。これからどうなるかなんてわからないけれど。
ジャージ姿でテキパキと仕事をこなすの姿は、眺めていて安らぐ。
付き合ってからの2年間、高校生活始まってからずっと一緒にいてずっと見ていて、まだ、わかっていなかったことがあった。
距離を置いて初めて見えることもたくさんあるんだ。

まだ、この頃は近い距離にいた。
は仕事中も俺と話をしてくれる。
どことなくよそよそしい気がしたけれど。
ヒナタが来てから、クラスに人があふれかえっているし、2人で歩いているといろんな奴がついてきて疲れたとか。
溜め息混じりに話すだけれど、こぼれるような笑顔を見ると自然と俺も笑顔になれる。





「ほんと、ヒナタって人気者でさ。・・・景吾が好きになった気持ち、わかる気もする」

「どうして?」

「女の私から見ても、かわいいんだよね。
 一緒にいて楽しくなれるし、やっぱり男ってなんだかんだ言って、自分のこと頼ってくれる子が好きじゃん。
 私は、そういうかわいい女にはなれないし。なんか、あれだよね、景吾はそういう子の方が好きなんじゃないかなーって」

「必要以上にそうされてもな・・・ウザイだけだろ」

「そうかなぁ。それが愛とか言って受け止めたりするんでしょ?だから付き合ってたんじゃないの?」

「そういうわけじゃなかったはずだよな」

「誰に同意求めてんのよっ」





クスクス笑いながらは仕事へ戻っていった。
俺も部活に集中する。

この後、の笑顔を見ることがほとんどなくなった。













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ひさびさ長編です。前からいつか書こうと思っていたものです。
けごたん前カノが幼馴染でモデル、今カノがヒロインで。
本当に、本当に好きなら相手が幸せになれるように努力するのかなーと。
自分のこと好きにならなくても、相手が幸せになれるように身を引くとか・・・。
あ、ありえないこと???
前カノの出現で動揺するけごたん、書いてて面白かった(笑
先生!頑張ってる人は素敵だと思いまーす。


d r e a m ... ?
t o p p a g e ... ?

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