[ ぐるぐるまわって床にたおれた ]





今日の部長会議の内容は、ほとんど頭に入らなかった。
私の頭の中は、跡部くんのことでいっぱいだ。
ぐるぐるまわる。
ぐるぐるまわる。
ぐるぐるまわる。
世界が、ぐるぐるまわっている。
会議が終わって立ち上がった瞬間、軽いめまいがした。
立ちくらみだろうか。

慌てて机の上に手をついて身体を支える。
「お先〜」とゆりりんが私に声を掛けていった。
ゆっくりと顔を上げる。
もう、ほとんどの部長が会議室から去っていた。
私も皆に倣って帰ろうとした。
けれど、声を掛けられて足を止めてしまう。
でも、怖くて振り向けなかった。
硬直していると、手首を掴まれる。





「おい、

「あの、なんでしょう、跡部くん」

「ちょっと、いいか?」





頷くこともできず、首を振ることもできず、私は固まっていた。
司会をしていた吹奏楽部の部長が、私たちに戸締りを頼んで去った。
もう、会議室にいるのは二人だけ。
私と、跡部くん。

私は、未だ、跡部くんの顔を直視できずにいる。
俯いたまま、逃げ出せずにいる。
跡部くんが手を離してくれたというのに、私の足はすくんでいる。
小刻みに、指先が震えている気がする。

「なぁ、なんか言えよ」と跡部くんに声を掛けられた。
けれど、唇が震えているだけで声にならない。
私の目には、私と跡部くんの上履きしか映らない。
本当に、近い距離だ。
私と跡部くんの上履きの距離は。
抱きつくこともキスすることも、簡単にできそうな距離。
つま先とつま先の距離は、三十センチものさしで十分測れてしまう。





「わかってんだろ、俺がのこと好きだって」

「わからないっ!」

「お、おい」

「わからないよ。私には、わからな、い・・・」





大声を出して、動揺して、涙があふれた。
手で涙をぬぐった。
「バカ、泣くな」と優しい声が頭上から聞こえた。
頭を撫でられて、その手はそのまま私の背中に添えられて、軽く抱きしめられた。
背中をゆっくりさすってくれる跡部くんの手。
本当に優しくて、驚いた。
普段の跡部くんからは、優しさをあまり感じないから。

どのくらい時間が経ったのだろう。
私の心が落ち着いてきた頃、跡部くんは私を離した。
やっと、顔を見ることができた。
少し見上げた先の跡部くんは、笑っていた。
そして、眩しいものを見るかのように少し目を細めて、私の頬の涙の跡を指でなぞる。
私は顔を下へ向けようとした。
けれど、跡部くんが顎をくいと上に持ち上げるから、下へは向けられなかった。
ゆっくり瞬きをしていると、唇に柔らかい感触が。

キ、ス、している?
跡部くんと?

私は驚いた。
そして、腰を抜かしてしまった。
へなへなと床に座り込む。
そんな私を見て、跡部くんは慌ててしゃがんで声を掛けてくれる。





「どうした?大丈夫か?」

「こ、腰、抜けた」

「は?」

「だ、だって、キスするんだもん、跡部くん」

「キスで腰抜かしたのか?これから先いろいろあるだろうに、どうすんだよ」





そんなこと言われても・・・。
私が返事できずにいると、跡部くんは笑った。
笑って、私にまたキスをした。
どうしよう、私、当分立ち上がれない。







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あとべさまにキスされて腰抜かしてしまう、ってのが書きたかっただけなの!

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