[ e s t o - v ]





仁成から別れを切り出され、私はそれを受け入れた。
受け入れたフリをしていた。
それは互いにプラスとなるものではなくて、良かれと思った行動が悪い方向へ二人を連れていった。
二人だけじゃない。
周りにいるたくさんの友人や仲間を巻き込んだ。
たくさん迷惑をかけてしまった。
本当に申し訳ない。

けれど、今の私たちを見て。
皆のおかげで元気にやってるよ。
仁成たちがインターハイで立花くんに会えるんだよ。
我がことののように嬉しいよ。
平静を装っているけれど、菫はきっと踊り狂うほど喜んでいるはず。

私の吹奏楽部も、夏の高校野球の応援のために練習している。
ずっと練習していたら疲れるから、ときどき体育館へ遊びに行く。
もちろん、インターハイに向けて練習している仁成たちに会うために。
けれど、今日は仁成の姿が見当たらない。
朝に会ったから、学校には来ているはずなのにな。
東本くんに尋ねたら、「こんな大事なときに行方不明〜」と嘆いていた。
私は仁成捜索隊に任命される。

教室、職員室、部室、どこにも見当たらない。
そんなときに仁成がいる場所はただ一つ。
国府津の海だ。
私は海を目指して全力で走った。
潮風をあびるころには、息が切れていた。

色素の薄い髪の人が、堤防に腰掛けている。
私は声をかけようと思って、止めた。
仁成の後姿をしばらく眺めていた。
そっとしておいたほうがいいかな。

前を向いて歩けるようになった。
仁成と別れていた二か月、吐き気がする毎日だった。
仁成の傍にいるだけで、仁成の姿を見ているだけで前に進める。
どんなに辛くても頑張ろうと思える。
今は、仁成から見返りをもらおうなんて思えない。
毎日、傍にいられるだけで見返りは十分もらってるよ。

私は「仁成ー!!!」と大声で名前を呼び、仁成の元へ駆け寄る。
振り返ってこちらを向く仁成の穏やかな表情。
私は笑顔で仁成に抱きついた。
私を抱きしめてくれる仁成の腕は、とても優しい。



、どうしてここに?」

「仁成ー、東本くんが捜してたよ」

「何も言わずに来たからな」



仁成は私の肩に顎を載せる。
色素の薄い、短い髪が頬に当たってくすぐったい。
仁成は私の身体を離すと、私の手を取った。
帰るんだ。言わなくてもわかる。テレパシーなんかじゃない。



「インターハイが終わったらさ、のしたいことたくさんやって・・・」

「しなくていいよ」

「え?」



だって、あなたと一緒にいるだけで幸せだもの。
あなたがそこにいるだけで、私は幸せになれるもの。



「インターハイが終わったら、じゅけんべんきょうー。
 仁成はスポーツ推薦あるかもしれないけど、私はセンター試験受けて国公立目指すから」

「そっか。じゃあ春が来たら」

「うん、春が来たら覚悟してね」





仁成は笑っていた。







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互いの存在があってこその人間関係。
互いの存在があってこその幸福。

エピローグ、短っ。

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