[ you are my amulet! ]





覚司は部活で忙しくて、なかなかデートに行けない。
練習試合の度に女の子に声を掛けているということも、噂で聞いている。
私を校内での「魔よけ」ならぬ「女の子よけ」に使っているのかもしれない。
なんだかマイナス思考。
試合の応援に行っても、声すら掛けてもらえない。
それでも応援に行くなんて、けなげだな、私。
友達は、そんな彼氏、やめちゃいなよと言うけれど、別れる理由がない。
そもそもなんで付き合っているのかわからなくなってきた。
告白したのはどっちだっけ、覚司だったかな。
初めて手を繋いだとき、覚司から手を握ってきたんだっけ。
初めてキスしたときも、覚司からだった。抱きしめあったときも、覚司がぎゅっと抱きしめてきたんだ。
私は、覚司に愛されていたんじゃなかったの?
じゃあ私は、覚司に愛情注いでいた?
もうわからない。一緒にいる時間が少なすぎる。
どうして、こんなふうになってしまったんだろう。

携帯電話に貼ったプリクラ。
色あせているけれど、私も覚司も笑ってる。
このときは幸せだったんだな。
今も、覚司と一緒にいてこんなふうに笑えるかな?
プリクラを指でなぞる。
こんなに切なくなるのはどうしてだろう。

思いがけない人からメールが届いた。
成瀬くんからだ。
明日、葉山崎で練習試合があるから来てほしい、と応援のお誘いだった。
こんなこと、初めて。
いつも、マネージャーさんに試合の日を教えてもらってたから。
その日のうちに、マネージャーさんからもメールをいただいた。
成瀬くんが誘っていると思うけれど、一応念押しのメールしておきます、だって。
念を押されて行かないわけがない。

覚司の顔を見るのは久しぶりだ。
話すのも久しぶりだ。
練習試合の当日、私はが体育館の裏手を通りがかったとき、ちょうど覚司が体育館の裏口から出てきた。
お互い驚いて「おう」と声をかけた。
覚司の笑顔。きらきら輝いていた。
私もつられて笑う。
なんだ、簡単なことだ。会えば、普通に笑えるんだ。





「成瀬が、を今日の試合に誘ったって言ってたからさー」

「うん、メールもらってびっくりしちゃったよ」

「何考えてんだかなー。聞いても、殺人光線予告ランプが光るだけだし」

「ふふふ、成瀬くんらしいね」





笑顔を見せれば、覚司も笑顔を返してくれた。
本当に些細なこと。けれど、幸せになれた。
たった一瞬でも幸せを感じられて、私は嬉しかった。
「別れよう」と言われても、素直に「うん」と言える気がした。

覚司が「あのさー」と体育館の裏口の階段に腰掛けながら言った。
腰掛けると言うことは、長話をしようということだろう。
私は「ん?」と返事をして覚司を見た。
一瞬目を伏せた覚司だけれど、私を真っ直ぐ見て口を開きかけた。
そのとき、裏口がガシャンと荒々しく開かれ、バスケ部員が飛び出そうとして覚司に気づき急ブレーキをかけた。
「邪魔なんだえ!!」と美濃輪くんが覚司に怒鳴って走っていった。
続いて出てきた井上くんが、「あ、高岩くんここにいたの?監督が探していたよ」
と声をかけて、美濃輪くんを追いかけていった。
やれやれ、といった顔で覚司は立ち上がり、「一緒に帰りたいから、待っててくれるか」とまじめな顔で言う。
「うん」と言えば、覚司は「ありがとう」と笑って言った。

何を言われるのかわからないけれど、待っている間、あまり緊張しなかった。
覚司の一生懸命な姿が見られたから。
みんなが覚司を、葉山崎を応援している。
声援を受けて、覚司はコート上を駆け回っていた。
すごいよ、すごいよ、キャプテン。

試合が終わってから、私は図書室で時間をつぶしていた。
覚司には試合後のミーティングがあるはずだから。
本を1冊読み終えて2冊目の本を探しているときに、「」と声をかけられた。
振り返ると、覚司が立っていた。
「帰る?」と尋ねると覚司は黙って頷いた。

校門を出るまで、私達は試合のことを話していた。
こう思ったからこうプレイした、とか、あのときはどういう気持ちだったの?とか。
私達が本当に話さなくてはならないことから、程遠いことを話していた。
話題がとぎれて話さなくなる。
私は覚司の様子をうかがった。なんだか遠くを見ていた。そして、急に私を見る。
私は驚いて顔を前に向けた。
すると、覚司は私の手をぎゅっと握ってきた。





「隣にがいると、どうも調子が狂う」

「え?それはどういう・・・」

「うまく言えない・・・けど、なんか、好きすぎてどうしたらいいかわからなくなる」

「・・・」





私こそ、どうしたらいいかわからない。どういうリアクションがお望みですか?
だんだん、私の手を握る力が強くなる。
辛そうな顔で、覚司は俯いていた。
なんだか切なくなる。胸が苦しくなる。





「遠くにいると、の笑顔が見られるまで頑張ろうとか、かっこいいところ見せてやらないととか、
 そういうことは考えられるんだ。けれど、隣にいると、緊張して思うようにいかない」

「どう、して・・・?」

「わからない」





切ない表情の覚司。
一緒にいる時間が短すぎて、ふたりの間に壁ができていることに気づかなかった。
私は、どうすればいい?何と言えばいい?笑ったほうがいい?泣いたほうがいい?
何もわからなくて、私は覚司に手を引かれてついていくだけ。
黙ったまま、ずっと歩いていた。
いつもふたりで帰るときに立ち寄る小さな公園に足を踏み入れた。
あぁ、そうだった。
覚司に告白されたのはこの公園だったな。
私がその告白の返事をしたのもこの公園だったな。

「ブランコ、乗ってもいい?」と小さな声で尋ねた覚司。
私は頷いて、繋いでいた手を離した。
私も、覚司の隣のブランコに乗る。
足で地を蹴って、ブランコを揺らす。
沈みかけた夕日が、私達を見ている気がした。






「わからないんだよな、にどう接したらいいか」

「どうして?試合前に会ったとき、普通だったよ」

「あれは、が俺が普通でいられるように引き出してくれたからだろ。
 自分から事を起こそうとすると、どうもうまくいかない。
 なんだろうな・・・・・・付き合い始めた頃のぎこちなさ、みたいな感じ」

「あー、わかる。わかるな、今の私達ってそんな感じ。むしろ、告る直前、みたいな?」

「あー、そんな感じ。お互いがちがちに緊張しまくってんの!」





覚司は大笑いしていた。私も大笑いした。
付き合って1年以上経っているのに、今更付き合う前の状態だなんておかしな話だ。
よく考えれば、すごろくで止まったマスに「ふりだしに戻る」と書かれているようなものだから、たいしたことではない。
ふりだしに戻ったって、また進めばゴールにたどりつけるのだから。

の顔見るとな、笑顔になれるんだよな」と笑顔で言う覚司。
私だって、覚司の顔見ると笑顔になれるんだよ。
笑顔になれるのは幸せな証拠。
嫌いな人と一緒にいたって幸せにはなれない。
だから、私は覚司が大好きだよ。
口にしなくても覚司に想いは伝わった。





「俺も、が大好きだから。もうこんなふうに緊張するのはやめる」





立ち上がった覚司は私の手を引いて、夕焼け照らす道を歩いていった。








 キミはボクのお守りだから

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ドラクエ7にアミュレットがたくさん(って4つだけですが)でてきたので。
タイトルのこととか、成瀬のメールとか、そういう謎解決編はおまけに。

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