[ キミはボクのお守りだから ]





覚司と「ふりだしからまたはじめよう」と約束した。
あれから数日経った。

まずは互いの存在を意識する努力をすることにした。
体育館、バスケットボール、ヘアバンド、そんな単純な物から覚司の存在を意識する。
そうすれば、離れていても傍にいるような気がするんだ。
それから、姿を見かけたら話をするようにした。
素通りしないで、必ず声を掛ける。
それだけで、覚司の存在が近くなった。

笑顔でいられるようになった。
友達にも「最近、元気だよねー」と言われるのは、よい証拠だと思う。

放課後の掃除時間。
私は担当場所である体育館と校舎の間の渡り廊下をほうきで掃いていた。
砂を掃いて、ごみがあれば拾って捨てる。
顔を上げれば成瀬くんが目の前に立っていた。





「掃除当番か?」

「うん、今日は渡り廊下なの」





掃除を終えてじゃんけんをしてごみ捨て当番を決める。
私はパーを出して勝ったからごみ捨てはなし。
体育館前のひさしの下で成瀬くんと立ち話をした。





「最近、高岩とはどうなんだ」

「ん、普通だよ。仲良し仲良し」

「だろうな、高岩を見ていたらわかる」

「え?」





あの試合の前まで、ずっと覚司は不調だった。何をしてもうまくいかない、スランプってやつ?
けれど、試合の直前、コートに立った覚司はいつもの覚司だった。
そう、成瀬くんは話してくれた。





とうまくいっていないのがすぐわかったから、試合に誘ったんだ。
 キャプテンがあんなふうだと示しがつかないし、高岩なら精神的にもっと強くなれるだろうし」

「でも、私が試合に来てるって覚司は知らないでしょ」

「いや、あいつは知っていたよ。自分が誘わなくても来てることを知ってた。
 毎回、ギャラリーから一瞬でを探していたからな」

「うそー、信じらんないよ」





成瀬くんはクスクス小さく笑っていた。
去り際にこう言ったの。
「アミュレットって英語の辞書引いてみれば?a、m、u、l、e、t。you are my amulet.
 それがなんだよ、あいつにとって」
私は「えー、えむ、ゆー、える、いー、てぃー」と繰り返しながら教室まで走った。
教室で机の中から英和辞典をとりだしてAの項目を調べる。
amulet、それはお守り。
覚司にとって私はお守り。どういうことだろう?

首をかしげていると、「!」と私の名前を呼ぶ声がした。
声の主は、覚司だった。教室の後ろの扉の傍に立って、笑っている。
覚司は、私が英和辞典を引いているのを不思議そうに見ていた。
私の傍まで来て、「何調べてるの?」と尋ねる。
私はamuletの部分を指差すと、覚司は「amuletがどうかした?」とまた尋ねる。





「うーんと、YOU ARE MY AMULET、YOUが私でMYが覚司?」

「え、誰から聞いた、それ」

「Nくん」

「成瀬かー。あいつには何にも言わなくても俺の考えていることわかってしまうんだよなー」





覚司はため息をついてうなだれながら教室から出て行こうとした。
私は大慌てで覚司に尋ねる。





「ねぇ、YOU ARE MY AMULETってどういう意味?」

「あなたは私のお守りです」

「日本語訳じゃなくて!」

「俺にとって、はお守りみたいなモンってこと。心の支え」





私は赤面して、何も言えなかった。
お守りみたいに、覚司の心を支えてなんかいないよ。
これから、ちゃんとお守りになるから。
存在のお守りじゃなくて、本当に心も身体も支える効果のあるお守りになるから。









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誰かという存在は、お守りみたいなものだなと思ったので。
1年に1度会うか会わないか、そんな友達がいるんだけど、
それでも私にとってはいちばんの友達なんです。
だから、お守りみたいな心の支えだなと。

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