[ rainyday dinner story ]





私は道のど真ん中で立ちすくんでいた。
アリエットさんが店から出てきて、私の腕を引いて道端へ寄せてくれた。
「ちょっとさん、車に轢かれちゃいますよ」
その言葉のすぐ後に、車のエンジン音が聞こえ、車が目の前を通り過ぎた。
「大丈夫ですか?水、用意しますね」慌ててアリエットさんは店へ戻っていった。

私は、どうすればいいのだろう。
レノさんは、私のことをおもちゃだと思っているわけではなくて、むしろ好意を持って接していた。
私はなんて酷いことを思っていたのだろう。
好きな人に対して、好かれないと決め付けて、好きな人の気持ちを傷つけてしまった。
レノさんが「ごめんな」と謝る必要なんて全くないのに。

アリエットさんが用意してくれた水を飲み干し、私は大急ぎでレノさんの後を追いかけた。
追いかけたところで追いつくはずもなく、行き先もわからない。
自分の全ての行動を後悔した私は、スーパーに寄り買出しをした。

レノさんに謝らなければ。
一緒に、謝罪の品を送りたい。けれど、レノさんの好きなものなんて知らない。
知っているのは、私が作るシチューが大好きだということ。
持って帰って冷凍するくらい、大好きなんだということ。

スーパーを出ると、小雨が降っていた。
私は走って家へ戻る。
家と言っても神羅の女子寮。
入り口で管理人さんに会釈をして、私は階段を駆け上がる。
手を洗い、エプロンをつけてキッチンで格闘する。
こんなに、シチューを作るのに緊張するのは初めてだ。





シチューを作り終えた。
耐熱容器に移し替えて、手提げ袋に入れる。
外は大雨になっていた。
大判の傘を差して、私は神羅の男子寮に向かう。
そこの管理人さんは、頻繁にレノさんに連れられてくる私の顔を覚えてくれている。
顔パスで通り過ぎて、レノさんの部屋に向かった。
レノさんの部屋の合鍵は、私のキーケースに入っていた。
レノさんが勝手に入れたのだ。そして、それを頻繁に使ってレノさんの部屋に出入りしている私。

礼儀だから、形式上呼び鈴を鳴らす。
いつも鳴らしている間に鍵を開けて部屋に上がるのだ。
灯りが点いておらず、暗い部屋。
数日前に片付けに来たのに、酷い散らかりようだった。
ものが散乱している。まるで、投げつけたかのように。

少し、レノさんの気配がする。
名前を呼んでも返事はない。
リビングに行くと、ソファの上でレノさんはうつ伏せになって眠っていた。
タークスのスーツ姿のままで。
規則正しい寝息が聞こえる。
夜勤明けで眠たくて仕方がなかったのに、私を探して会いにきてくれたのだ。
それを、迷惑だと思っていた自分を殴りたくなる。
私は荷物をテーブルの上に置き、ソファの傍に座った。
いつの間にか、眠ってしまった。





」と私の名前を呼ぶ声がする。
目を開けるとまぶしい世界が私を待っていた。
ソファにもたれかけていた身体を起こすと、レノさんが私の顔を覗き込んでいた。
テーブルの上には、私が作ったシチュー、それからパンとサラダが二人分用意されていた。
散らかっていた床は、少しだけ片付いていた。





「よく眠ってたぞ、と」

「ん、あ、レノ、さん」

「どうした?」

「・・・さっきはスミマセン。私、レノさんの気持ちも知らずに傷つけてしまって・・・」

「それはお互い様だぞ、と。のことも考えずに、自分の気持ち押し付けてさ」





もうウイッグははずしている。金髪のショートヘアーの頭をレノさんがなでてくれる。
は元が美人だから何をしても似合うな」と嬉しいことを言ってくれる。
ちゃんと、自分の想いを伝えなくちゃ。





「レノさん、私、お金積まれなくても、レノさんのところへだったら飛んで行きますよ」

「それは、どういう意味・・・」

「レノさんのこと好きだから。ずっとからかわれてると思ってました。でも、好きだから・・・」





レノさんは目を丸くして驚いていた。
しばらくして、大声で笑い出し、その後、私の身体を引き寄せて強く抱きしめた。
私もレノさんの背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめる。
けれど、レノさんはすぐに私を解放するのだ。
私はレノさんに抱きついたまま。
レノさんと目を合わせると「のシチューが泣いてるぞ、と」言われた。
レノさんは私の身体を軽々と抱き上げてソファに移動させる。

何度、レノさんと一緒に食事をしたのだろう。
何度、その空気に緊張したのだろう。
何度、その空気に酔ったのだろう。
レノさんが帰った後、何度虚しくなったのだろう。

無言で、ただ食事をした。
今日は、緊張することもなく、二人きりの空気に酔うこともなく。
シチューの最後の一口を食べ終えてスプーンを置いた瞬間、レノさんが口を開いた。





「押しかけてたらは俺に心を開いてくれるかと思ってさ。
 押しかけるのが休みの日の日課になって、夜勤明けで眠いから今日はやめようかとおもったけど。
 フラついてたら、変装したを見つけておもしろかったぞ、と」

「よくわかりましたね。誰も、気付きませんでしたよ」

「それは、他の連中がのこと愛してないからだぞ、と」





「愛」という言葉を聞いて、私の顔がほてる。今頃真っ赤になっているだろう。
レノさんは、私の顔を見て笑っている。
つられて私も笑う。
レノさんは私の前髪をかきあげて、額に口付けた。
「さっきはあんまり抱きしめられなかったから」と言って、私を抱きしめる。
私も、同じようにレノさんのことを抱きしめた。
雨が地面に叩きつけられる音なんて、耳には入らなくなった。







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ふて寝、レノさん。
部屋が散らかっていたのは、レノが八つ当たりしたからです。
というエピソードをどこかに入れたかったけど、入れませんでした…。


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