[ sunnydays cafe story ]





真っ青なフレームのメガネを掛けて、私は颯爽と街を駆け抜ける。
誰も私が私であることに気付かない。
そう、私のことをとして認識する人はいない。
それもそのはず、いつもの黒のスーツは着用せず、ベージュのスーツ、しかもスカート。
金色のショートヘアは、栗色のミディアムフルウイッグで隠してしまう。
カラーコンタクトを入れたかったけれど、目の調子が悪いから普段かけない真っ青なメガネ。

いつもなら、街を歩けば知り合いに声を掛けられることが多いけれど、今日は誰にも声を掛けられなかった。
これなら、きっとレノさんの目も欺ける。
今日と言う休みの日くらい、一人でゆっくりさせてください。
私の好きな人だから一緒にいれば幸せになれるけれど、気を遣って疲れてしまう。
片想いなんてそんなもんだ。
からかわれているんだろうな、私。
レノさんが私のことを気にかけるはずがない。いいオモチャが見つかったと思われてるんだ、きっと。

休日が重なれば、私の部屋に押しかけてくるレノさん。
食事を出せだの、掃除をしに来いだの、私はレノさんの家政婦じゃない。
立派なタークスの一員なのに。

それでも、惚れてしまった以上、断れない。
どうして、こんな優しくない人を好きになってしまったのだろう。

私はお気に入りのカフェに立ち寄り、馴染みの店員に注文をする。
彼女も私のことに気付かず、一見さんへのノーマルな接客をする。
小さな声で彼女の名前を呼べば、彼女は私の顔を繁々と見るのだ。





「も、もしかして、さん?」

「そうですよ!アリエットさん。気付かなかった?」

「声が似てるとは思ったのですが、その変装では別人ですもの。・・・でもきっと、レノさんなら気付くんでしょうねぇ」

「え?」





意味深な笑みを浮かべて馴染みの店員、アリエットさんは注文を通しに厨房へ向かった。
日当たりの良い窓際の四人掛けの席で、私はガラスの向こうを歩く人々の観察をする。
買い物に行くおばさん、営業中のサラリーマン、無邪気にはしゃぐ子どもたち。
平日の昼間、それなのに若いカップルも見かける。
手を繋いで身体を寄せ合い、幸せそうな表情で私の目の前を過ぎていく。

タークスに身を置く以上、平和な日常とは程遠い日々を送っている。
仕事と割り切ったとしても、きっと平凡な男性には受け入れられないことをしている。
こんな私が恋をして、誰かと交際することになるわけがない。
そう思っていたのに、どうして惹かれるのだろう、レノさんに。
右手の小指に光るピンクゴールドのピンキーリング。
どこかの名産の石がはめられていて、土産屋で売っていたというものを私にくれたのはレノさん。
「いつもおいしい飯作ってくれて、部屋の掃除もしてくれる御礼だぞ、と」そう言って私の掌に載せたんだ。

注文したカプチーノとホットケーキが届いた。
バターがホットケーキの上を溶けて滑る。
ナイフとフォークで切り分け、それを口に運ぶ。
急に日が陰った。私は窓に目をやり硬直する。
レノさんが店の窓際ギリギリを歩いているのだ。
私は俯いて、カプチーノに手を伸ばした。

ばれたか?いや、気付いてないか?
彼はここで何をしている?
夜勤明けで眠っている時間じゃないのか?

レノさんが通り過ぎることを祈りながら、カプチーノに口をつけた。
しばらく経って、誰も店へ入ってこないことを確認し、私はほっと息を吐いた。





「なーに、ため息ついてんだよ、と」

「れ、れ、れのさん!!!」

「おいおい、セフィロスでも現れたような声出すなよ・・・」





右の耳元でレノさんの声が聞こえ、驚き慌てふためいた。
いつの間に店へ入ったのだ?
何も言っていないのに、どうしてこの変装で私に気付いたのだ?
「いいから、そっち寄れよ」と言って、レノさんは私の隣に座ろうとする。
向かい側のソファが空いているのに、意地でも私の隣に座るのだ。
私はしぶしぶ左端に寄り、カプチーノとホットケーキを引き寄せた。
アリエットさんはこちらの様子を伺っていて、「コーヒーとオムライス!」とレノさんが叫べば「畏まりました」とお辞儀する。

レノさんは私の栗色の髪を指でもてあそんでいた。
居心地が悪い。
緊張して吐きそうだ。
気持ちここにあらず。私はフォークでバターだけをすくい、口に運んでいた。
レノさんが、私のその手をがしっと掴んで止める。





「ちょ、おい、!バターだけ食う趣味あんのか?」

「え、あ、すみません。バターしかフォークにのっかってませんね」

「大丈夫か?」

「はい、レノさんが来るまで大丈夫でしたから」





なんてかわいくないのだろう。
レノさんも愛想をつかしてくれればいいのに。
タークスの女なんて、ずっと独り身でいいんだ。
本当に、どうして、こんなに好きになってしまったんですか、貴方のこと。

涙がこぼれた。
気付かないフリをして、ホットケーキを食べた。
嗚咽がもれそうになったら、カプチーノを飲んで誤魔化す。
俯いて、何も話さないで、ただ食事をした。
レノさんは、出来立てのオムライスをおいしそうに食べていた。

、オムライス好きだろ?」そう言って、レノさんはスプーンですくったオムライスを、私の口元へ運ぶ。
私はそっぽを向いた。
レノさんに泣き顔を見られなくない。
窓の外を歩く人には見られても構わない。
レノさんに見られるのは、嫌だ。

レノさんはそのまま自分で食べたようだ。
左手で紙ナプキンに手を伸ばし、それを私の右頬に当てる。





「ほら、拭けよ。涙の跡が綺麗なお顔に残るぞ、と」

「や、泣いてないです」

「俺のせいなんだろ?食べたら消えるから、ちょっとがまんしてて」





レノさんのせいじゃない。
私のせいだ。私の心が強くないから。
歯を食いしばり、涙を食い止めた。

泣きながら食べていた私と、男のレノさんの食べるスピードは違う。
量は私のほうが少なくて、私のほうが先に食べていたのに、食べ終わりの時間は同じだった。
レノさんはオーダーシートをレジへ持って行き、私の分の会計も済ませてくれる。
いつもこうだ。
レノさんと食事に行くと、必ずレノさんの奢りになる。
ま、レノさんに手料理出すときは、私持ちになるのだけれど。

そろそろ限界だな。
私は疑問をレノさんに投げかけてみた。





「レノさん、どうして私に家政婦みたいなことさせるんですか?いいオモチャだと思ってますよね」

「家政婦?オモチャ?なんだそりゃ」

「だって、食事とか掃除とか、家政婦の仕事。レノさんの給料なら雇えるでしょ?」

「なら、俺はを雇うぞ、と」





どういう思考回路をしているのだろうか。
がくっと私は項垂れた。
レノさんは飄々としていて、私の前を歩いていく。
追いかけようとして足を踏み外し、私は地面にダイブする。
それを寸前で受け止めてくれたのは、レノさん。





「タークスが何やってんだぞ、と。ほら、立てるか」

「あ、はい、申し訳ありません」

「ほんとは雇いたくないけどな・・・どれだけ金を積めば来てくれるんだ?」





レノさんは真剣な顔で私を見ていた。
まるで任務中のよう。
ターゲットを射抜くような瞳にドキリとする。
お金を積まれなくても、好きな人のためなら飛んで行きたいよ。
けれど、レノさんの目的が見えない。
私はレノさんにとって仕事仲間じゃないの?
オモチャとしてもてあそばれているうちが華なのかな?

わからないよ。
どうして?





「俺はが好きだから、金を積んでが俺の傍にいてくれるのならそれを選ぶ。ごめんな、ずっと振り回してて」
少し淋しそうな目で言ったレノさん。
私は呆然とその背中を見送った。
レノさんが、私のことを、好き、だって???







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少し髪型がかわっただけで別人のように見えたりしませんか?
タークスなら変装くらい見破れるというのはナシでお願いします。笑


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