[ レ ン タ ガ ー ル 5 ]





私が入院していたのは、エッジにある病院、神羅の研究者だった人たちが開いたところだった。
すっかり回復した私は、ご飯も自分の手で食べられるようになり、病院内を散歩することも許された。
退院するとき、イリーナさんたちはタークスの仕事ゆえに立ち会ってくれなかったけれど、母がやってきてくれた。
お世話になった先生たちにお礼を言い、私は母と二人、エッジにある家へ戻る。

母さんは何も言わなかった、私の身に危険が降りかかっていても。
そういう豪胆な人なのだ。
むしろ、茶々をいれてきたものだから、呆れかえる。





「金髪のかわいい女の子が、血相を変えてうちへ来てね。平謝りするものだから驚いたよ。
 あと、いけ好かない上司っぽい人も来てね。まぁ懇切丁寧だったよ」

「ツォンさんのこと、いけ好かないとか言わないでよ・・・」

「あら、は赤毛の人よりあちらさんがいいの?」

「はぁ???」





この人は一体何を言い出すのだ。
答えずにいると、「まぁどっちでもいいけどね。タークスなら誰だってエリートなわけだし」と、意味不明なことを言う始末。
私が首をかしげると、母さんは笑っていた。
母さんが笑っていられるならそれでいいや。
家族の幸せは、私の幸せ。

家に着くと、小さい子がはしゃぐ声が聞こえてきた。
姉夫婦が遊びに来ているのかな。
久しぶりに会えるのが嬉しくて、私は家の中に急いで入った。
「姉さん!」姉の後姿に向かって声を掛ける。
姉さんは振り返って笑顔を見せてくれた。
その奥には義兄さんがいるものと思って顔を覗かせたら、そこにはレノさんと甥っ子が遊ぶ姿があってあいた口が塞がらない。
ぽかんと口を開けている私を見て、レノさんは大笑いする。





「なんだよ、。その間抜け面は、と」

「れ、れ、れ、れのさん!!!どうしてうちに」

のこと守れなかったことを謝りにきた。あとは、もう少し、のこと神羅に貸してほしいなーって」

「え?え?」





私はレノさんの来訪に驚き、更にまだ力を貸してほしいというレノさんの発言に驚いた。
レノさんに懐いている甥っ子は、赤毛をひっぱったり、膝の上に乗ったりと急がしそうにしている。
リビングのソファでじゃれあう二人から目を離すと、家族団らんのテーブルに広げられた料理が目に入る。
豪勢な料理。何のパーティーだ???

母、姉夫婦と甥、私、それにレノさん。不思議な六人の夕食タイムが始まった。
話題はもっぱら姉夫婦と甥のことだけれど、時々私にも話は振られる。
もういい年なんだから結婚して子供産んで幸せになればいいとか、お見合いの話とか。
レノさんの前でそんな話しないでよ!と心の中で叫んでみる。
どうして?どうしてレノさんの前で話してほしくない?
別にレノさんとは何の関係もない話なのに。

何なのだろう。
レノさんに対して抱くこの感情は。
恋じゃないと思う。
けれど、恋のような気もする。
まだ、よくわからない。

ただ、我が家にいるレノさんは、とても穏やかに見えた。
ヒーリンの白い建物の中にいたときは、身にまとっているオーラが怖かった。
戦闘中はもちろんのこと。
でも、同じ人間だから、穏やかな一面もあるんだ。
実は子供好きなんだよ。甥っ子をあんなにかわいがってくれるんだもの。

母と姉と三人で食事の後片付けをする。
男連中は三人でテレビを見ながら仲良くしている。
平和だ。
世界はまだ復興の途中だというのに。
このままでいいのかなと疑問に思うこともある。
けれど、これでいいんだよね。
明日からは、また世界の復興に力を注ごう。
リーブさん、しばらく休んだ私のことをどう思うのだろう。

食事の後片付けを終えて、私は一人で庭へ出た。
夜空には星が煌く。
父が作ってくれた木製のベンチ、私はそれに腰掛けた。





「親父さんが作ってくれたんだって、それ?」

「あ、はい。大工だったんですよ。世界の復興に力を注ぎたいって言ってたのに、星痕症候群で亡くなりました。
 ニビ熊の尻尾からとれる成分で、星痕の痛みが和らぐんですよね。だから、私を戦力に・・・少しでも多くニビ熊の尾がほしかった」

「そのせいで、には迷惑を掛けたぞ、と」

「とんでもない!いい経験になりました。タークスと一緒に仕事するなんて無理なんですよ
 明日からはリーブさんと世界再生機構の仕事を頑張りますよ」





明日から頑張る、もう大丈夫、そういう意味をこめて笑顔をレノさんに向けたつもりだったのに、
レノさんは眉間に皺を寄せて不満そうにしている。
何が不満なの?
私が尋ねようとしたら、肩を掴まれレノさんの腕の中にすっぽり収まってしまった。
頬に、レノさんの髪と頬が触れている。
声が出なかった。抵抗しようとしたけれど、そんな理由もないことに気づいた。
むしろ、心地よかった。
誰かと一緒にいられる安心感に浸れた。

本当は、寂しい人なんだ。
誰かと一緒にいたいのに、タークスの仕事の都合で誰も傍に置けないし、愛せない。
私はレノさんの背中に腕を回した。
少し、レノさんの体が揺れた。そして、私を抱きしめる腕に一層力を入れる。
ちょっと、痛いよ、レノさん。





「レノさん、痛い、痛いっす」

「あ、悪い。嬉しくて、我を忘れてたぞ、と」

「はぁ?」

「家族っていいよな」

「いつでも遊びに来てくださいよ。どうせ私と母しかいない寂しい家ですから。
 レノさんが来るなら、姉夫婦も甥っ子も遊びに来てくれると思いますし」

がいるならどこでも行くぞ、と」





私が目を丸くして驚いていると、レノさんは笑っていた。
大きな掌で私の頭をなでる。
おでことおでこをコツンとくっつける。
鼻と鼻が触れそうで触れない微妙な距離。

「またな、。俺はに出会えて、一緒にいることができて、本当によかったと思ってる」

レノさんは、私の両頬を掌で包んで、満面の笑みを浮かべた後、去っていった。
闇に消え行くレノさんの背中を、私は見送った。





数日後、リーブさんに呼び出された私は、世界再生機構の事務所を訪れた。
少し疲れた表情のリーブさん。
何かトラブルでも起きたのだろうか。
私は大人しく隅のソファに座っていた。
リーブさんが何かを話そうとしたそのとき、奥の部屋からドンドンと大きな物音が聞こえた。
私が驚いて体を強張らせると、リーブさんは頭を抱えていた。
そして、その部屋の扉が開かれ、真っ赤な髪でスーツ姿の男の人が現れる。
・・・レノさん、だ。
私が驚いていると、レノさんは私の元に駆け寄り、手を掴んで引きずっていく。
引きずられながらリーブさんの方を見ると、優しく微笑んで手を振っていた。
どういうことだ???

レノさんに引きずられて裏の広い敷地に止められたヘリに乗り込む。
私はされるがまま。
ヘリが目指すのは、





「ヒーリン。ちょっとした任務でツォンさんとイリーナが行方不明になってる。
 ヒーリンの留守番を頼みたいんだぞ、と」

「行方不明って、大丈夫なんですか?」

「まぁ、大丈夫じゃないだろうな」

「そんな、楽観的すぎますよ!」

「今回は、向こうも必死なんだろうな。俺も必死なんだ。のこと守ってやる自信はない。けど・・・」

「けど?」





レノさんは、ヘリの運転をしながら話していた。
そして、まっすぐ前方を見つめながら、真面目な顔つきで、私の体の中心に響くような声で言った。

が傍にいてくれれば、頑張れるしなんとかなる気がするんだ。
 今度は神羅のためじゃなくて、俺のために力を貸してくれよ、と」

個人的なお願いをリーブさんにしていたのか。
きっと、リーブさんは断ったんだ。
けれど、レノさんが必死に頼み込んで、イエスと言わざるを得なくなった。

嬉しく思う。
私のような一般人の力をタークスが借りたいと言ってくれるのだから。
私は「はーい」と少し間の抜けた声で返事をした。
レノさんは嬉しそうに笑って、左手を私の肩に回して抱き寄せ、顔を近づけそのままキスをする。
私は驚きのあまり、声が出なくて口をパクパクさせていた。
レノさんは、そんな私を見て笑っていた。
からかって遊んでいる???
私がふくれっ面を晒していると、レノさんはまた笑う。

「俺はのことが好きだから、傍にいてくれて嬉しいんだぞ、と」

また嬉しいことを言ってくれる。
恋人を亡くしてから、恋なんてしていなかった。
また、恋に落ちることができそうだ。







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けっこう中途半端系で終わりました。笑
ご利用は計画的に…じゃなくて、話を書くときは計画的に。

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