[ r e a s o n s ]
12月、3年生にとっては切羽詰る時期。
推薦で大学を決めた俺とは、必死になっているクラスメイトの迷惑にならないようおとなしくしている。
それにも飽きたから、元日は初詣に行こうと約束した。
みんな進路が決まりますように。
来年もいい年になりますように。
来年もふたりで楽しく過ごせますように。
大晦日になれば年越しそばを食べながら特番を見て、除夜の鐘が聞えたら年越しに向けて心を構える。
構えたところで何かが変わるわけでもないけれど。
いいんだ、それで。
少しでいいから、来年は何か変えようとか、もっともっと一生懸命やろうとか、もう少し笑える回数を増やそうとか、
そんな些細なことを年の初めに思うだけで、変えようとするんだ。
それだけ。
願ったり思ったりして、少しでもいいように変えようとする意思が必要なだけ。
来年は、自分だけうまくいけばいいやなんて思わないで、周りのことも見られればいいなと思った。
自分のことばかり考えていて、きっとのことを振り回しただろうし、重たい荷物もたくさん与えてしまった。
のことを考えるといつも後悔ばかり。
好きだから何かしてあげたいという気持ちより、好きだから何かしてほしいという気持ちのほうが大きいんだ。
それでも、いつもは笑っていて、初詣の約束も笑顔で受けてくれた。
今更初詣に行くのをやめようなんて言えない。
年が変われば震える携帯。
数分おきにメールが届く。
待て待てと言ったところで待つわけもなく、ただ携帯電話のバイブレーションが響く。
受信トレイを開いてメールの確認。
ひとつひとつ読んだ。
言わなくても新年を迎えたことくらい俺にだってわかる。
それでも誰かにメールを送るのは、新年の訪れを伝えたいのか。ただ義理で送るのか。
真意なんて俺には関係ない。
ただ、送る相手に俺を選んだことを、喜びとして受け取る。それだけ。
からのメールを見つけて、もう一度読む。
あけましておめでとう☆★
今年もよろしくねー。今日
の初詣楽しみにしてるよー
。フランクフルト買ってね
(^^)
フランクフルトをねだるあたり、初詣に行くことはの負担じゃないらしい。
メールを打ちながらは笑っていたのだろう。
手にとるようにわかる。
今頃、フランクフルトのことを思いながら夢でも見ているかもしれない。
高校3年生にもなって、屋台のフランクフルト目当てで初詣に行くのはぐらいしかいないのだろうな、
と思いながら、買って一緒に食べている俺の姿が頭をよぎる。
苦笑するしかなかった。
ぐっすり眠って朝を迎える。
眠ってぼけた頭は、新年を迎えたことも、浴びている日差しが初日の出のものだということも、さっぱりわからない。
ダイニングでテレビが騒々しい音を発している。
ニュースじゃない。
新年の特別番組。見る気もしない。
外にお日様が昇っていることだけが救いだった。
雨の初詣ほど、嬉しくないものはない。
朝の神社。人はいるけれど、人ごみと言えるようなものじゃない。
ちょうど新年を迎えた夜には人がたくさんいたのだろう。
ゴミ箱に収まらなかった竹串や袋が散らばっていた。
と待ち合わせた場所は屋台と神社の間の木の下。
振袖を着た女の人がいる。
間違いない、あの顔はだ。
驚いて凝固してしまったけれど、大慌てで駆け寄った。
まず、彼女を待たせている時点で新年早々俺はよくない。
「!」
「学!おそーい」
ふくれっ面の。
いつもと違って見えるのは振袖のせい。
ピンクと白のグラデーション。散りばめられた花々。
髪に絡められたかんざし。太陽の光を跳ね返してきらめく。
頬をしぼめると、唇を横に伸ばしてはニーと笑う。
そして袖を広げると、くるりと1周回る。
「どう?」と振袖を見せるは、まるで七五三を迎えた子供のような表情を見せる。
大掃除のときに母親の振袖が出てきたので、祖母が着付けてくれたらしい。
「行こ!」俺の感想も要求せずに、は俺の手を引いて境内へ足を進める。
そうか、感想なんか欲しくないんだ。ただ、俺に見せたかっただけ。
着ているものが違うだけで、印象は大きく変わる。
大人っぽくなったというよりは、いっそう子供っぽくなったような気がする。
無邪気な子供のよう。
さい銭を放り投げ、手を合わす。
今年もよい年になりますように。
何をとってもよい年。勉強、部活、普段の生活、のこと、仲間のこと。
卒業して離れ離れになっても、生きていればいつか会える。
だから、出会った仲間のことを忘れずに生きて、また新しい世界で仲間を見つけるんだ。
人との出会いに恵まれた年になりますように。
そう祈った。
隣を見れば、も手を合わせていた。
顔を上げて俺を見る。
そして言うのだ、「フランクフルト食べたい」と。
ただフランクフルトを食べることだけ考えているようだ。
何のための初詣なのか、さっぱりわからない。
・・・そもそも、意味のある初詣というのもよくわからないな。
人間が決めた新年の始まりというけじめをつけるための行事。
にとってはフランクフルトを食べるための行事。
俺にとっては何だろう。
「いただきまーす」嬉しそうな声では言う。
にならって俺も言う、「いただきます」と。
は俺を見て微笑む。
フランクフルトにかけられたマスタードはそんなに辛くなかった。
「ちょっとちょうだいよ」と言いながら、俺の許可も得ず、は俺のフランクフルトをかじる。
そして、はケチャップのかかったフランクフルトを俺の前に差し出す。
食べろということだ。俺はかじって、ケチャップの甘さに酔いしれる。
「やっぱ、初詣といえばフランクフルトだよね」
「そうだな」
「え、ホント?」
は単純だよなと思いつつも、そういうところが好きなんだと実感する。
考えるときはとことん考え込んで周りが見えなくなるのに、答えが見つかると能天気になる。
俺にはないものをたくさん持っている。
そうだな、単純なこと。
初詣に行きたいから行く。
と一緒にいたいから、一緒にいる。
好きだから、好きだと伝える。
それだけ。
がどう思っているかも大切だけれど、が嫌がっていることをしなければいい。
が笑ってくれるならそれでいい。
俺がのことを振り回していると思ったけれど、そうでもないようだ。
新年早々、は振袖を着て、フランクフルトを食べて嬉しそうに笑っている。
それだけで、もう十分。
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クリスマスプレゼント企画で、振袖着た彼女と初詣、なんですが。
テーマがフランクフルトなのは、私の趣味でスミマセン。
初詣に行くと、屋台のフランクフルトとベビーカステラが食べたくなります。
嗚呼、色気より食い気。花より団子。