[ be lovely. ]





先生に呼び出されて、雑談につき合わされ、気がつけば夕方四時半。
原田くんの誕生日なのに、なんてこったい!
教室に戻れば、誰もいない。
体育館に行けば、今日のバスケット部は休み。
まだ校内にいた高柳先輩に聞けば、原田くんは部活のミーティング後にすぐ帰ったと。

もう追いかけても追いつけないかな。
約束もしてなかったし、普通に家に帰っちゃうかな。

考えもしなかったけど、彼女とデートもありえる。

そうだよね。
原田くん、かっこいいし、人気あるから、彼女いるかもしれないよね。
彼女がいなくても、きっと好きな人はいるよね。

絶対私が祝ってあげないと、と意気込んでいたのがバカみたいだ。
肩を落として帰っていると、高柳先輩に声を掛けられた。


「何落ち込んでるんだ?」
「高柳先輩・・・ちょっと空回りしただけです」
「徹のことでか?」
「はい、でもいいんです」
「よくないな」
「どうしてですか?」
「どうしても」


高柳先輩は自分の携帯電話を私に差し出す。
画面に表示されたメールは原田くんからのもの。


『人身事故で電車が止まってら。暇すぎてツライ』


電車止まってるなら、私も帰れないや。


「早く、駅まで行ってやれ。徹が待ってる」
「あ、ありがとうございます!」


駅までたいした距離はないから走れば大丈夫。
私は二月の寒空の下、駆けた。


駅の券売機の横でしゃがみこんでいる原田くん。
ヤンキーみたいに見える。
それがおかしくて笑ってしまう。
私の小さな笑い声に気付いて、原田くんはふくれっ面を晒している。


ー、笑うなよ」
「ごめんごめん、だってヤンキーみたいでさ」
「人身事故で電車止まってるから帰れないんだよ。も、だろ?」
「そうそう、さっき高柳先輩から聞いたよ。だから急いで来たの」
「高柳が? なんでだよ」
「あ、えっと、いろいろあってお話ししてて。それより、原田くん、誕生日おめでとう!」
「おう、ありがとう。知ってたんだな」
「うん! だって、すき・・・ううん、なんでもない」


危ない危ない、うっかり告白してしまうところだった。
原田くんは首をかしげている。
慌てて話題をすりかえる。


「あのね、昨日クッキー焼いたんだけど、食べる?」
「食べる! 欲しい! くれんの?」
「うん」


原田くんのために焼いたんだけど、それは言わないでおく。
渡した包みはすぐに開かれ、クッキーは原田くんの口の中へ消えていく。
お腹空いてるのかな。
原田くんは満足そうにしている。


「誕生日だからって誰かが祝ってくれるわけでもないと思ってたから、今日は本当に嬉しくて幸せだ」
「本当に? よかった、祝えて」
「高柳が誕生日プレゼントが突撃するとか意味わかんねーこと言ってたんだけど、のことだったんだな。
 本当にありがとう。今までで、最高の誕生日だ」


よかった、本当によかった。
原田くんの誕生日を私が祝わないと! と意気込んでよかった。
嬉しくて、目が霞む。
涙が目尻ににじむ。
泣いている私を見て、原田くんは慌てる。


「お、おい、どうしたんだよ。俺、泣かせるようなことしたか?」
「ううん、嬉しくて、涙が出ちゃった。ごめんね、驚かせて」
「いや、いいけど、俺、どうしたらいい」


原田くんは誕生日なんだから、困らせたらだめだ。
私は涙をタオルで拭き、大丈夫だという意味を込めて笑顔を送る。
そうしたら、原田くんは目を大きく開いて顔を逸らしてしまう。
表情は見えない。
けれど、横髪の間から見える耳が真っ赤だ。


「それ、反則。やべえ、かわいすぎるだろっ」
「えっ」
、そういうのは他の男にしたらダメだからな!」


原田くんは私の手を掴んで改札に向かった。
問いかけても答えてくれないから、私も自動改札機に引っかからないように定期券を改札機に通す。


「原田くん!」
「もう無理! 我慢の限界!」
「何がなの?」
「俺、が好きだから、誕生日祝ってもらえて最高だと思ったし、さっきの笑顔は反則級のかわいさだったし、を家に持って帰りたい」
「お、お、お持ち帰り、で、ですかっ?」
「あ、違う、そういう意味じゃなくて! 家に帰っても誰もいねえから、じゃなくて、そういう意味じゃなくて、それは、その・・・」
「だ、大丈夫、意味はなんとなく、わかる。寂しいっていうか、そういうことだよね?」
「そ、そう。・・・そう、だな」


俯いて、少し顔を赤くしている原田くん。
掴まれた手はそのままで、原田くんの腕に体を寄せた。
何度も言うのをためらった言葉が自然と出てきた。


「私も、原田くんが、好きだよ」


原田くんは驚いて、でも、すぐに柔らかい笑みになった。




**************************************************

ハッピーバースデー2015! 徹くん!

手作りお菓子がよく出てくるのは私のシュミです、はい。
徹くんは不貞腐れたりするけど、お茶目だったりするんだな。
私がやらなくちゃ! と意気込んでも、誰かがさらっとやっていること、あるよね。

学ちゃんは、二人が両想いだと知っていて温かい目で見守っている設定。

inserted by FC2 system