[ 猫 舌 の 夕 暮 れ ]
部活のない日、沈みそうで沈まない夕日を背に、俺とは駅へ向かって歩く。
部活がない者はずいぶん前に帰宅しているだろうし、部活がある者は真っ最中だ。
そんな半端な時間に帰るのは俺たちくらい。
追い抜かされることも、向かってくる誰かとすれ違うこともなかった。
「おなかすいたなー」
「年がら年中ハラ減ってんのな、は!」
「寒くなったから、燃えてるの!」
「本当かよ」
唇をへの字に曲げている姿が子供っぽくって笑ってしまう。
笑ったら、背中を平手でバシっと叩かれた。相当派手な音をたてていたから、かなり痛い。
大げさに痛がって見せたら、「運動部がこれくらいで弱音吐くんじゃない!」と叱られた。
運動部は叩かれる強さなんて持ってない。
ジンジン痛む背中をぎこちなくさすっていると、がその手を払いのけて、自分自身の手でさすりはじめる。
「ごめんね、すごい音だったもんね、痛いよね」
「当たり前だ! 気付くの遅ぇ・・・」
「ごめんなさい。お詫びに焼き芋おごるよ」
なんで焼き芋?
首をかしげると、は角に止まっている車を指差す。
焼き芋屋の軽トラックが止まっていた。
俺に笑顔を向けて、は駆けていく。
「焼き芋二つくださーい」
「はいよ、熱いから気をつけてな」
満面の笑みで焼き芋を持ってくる。
本当に、食べ物のことになると、表情が明るくなる。
片方の焼き芋を俺に差し出すかと思えば、俺の横を通り過ぎていく。
驚いて振り返れば、高柳とバスケ部の女子マネージャーがいた。
一つは高柳たちの分だったのか。
俺の隣に戻ったは、焼き芋を半分に割る。
割った片方を俺に差し出した。
「はい、半分あげる」
「一本丸々じゃねえんだな」
「そんなに食べられないよ。結構どっしりしていて大きいでしょ?」
「太るしな」
「お、お、き、な、お世話!」
白い湯気がいもの表面から出ている。
舌先を表面に当てたら熱かった。
息を吹きかけて、少し冷ます。
猫舌のは、俺と同じように息を吹きかけて冷ましていた。
「猫舌には辛い季節よの・・・」
「どこの言葉だよ、それ」
「さあね。焼き芋は半分こして食べたほうがおいしいよね」
「まだ食べてないけどな」
「ほんと、二人とも猫舌なんだもん。
焼き芋屋のおじさんに悪いよね、できたてほやほやのアッツアツが食べられなくて」
大きく息を吹きかけて、思い切ってかぶりつく。
やはり、熱い。それをがまんして、口の中で転がす。
空に向かって息を吐くと、湯気が口から出て行く。
「うまい!たまんねーな」
「ほんとーに、おいしいー! しあわせ」
「安い幸せだな、の幸せって」
「うっさい! 安上がりな彼女でいいじゃない、徹くんにとっては」
「そうだなぁ」
金がかかるとかそういうんじゃなくて、本当に、俺は、隣でが笑っていてくれるならなんでもいい。
**************************************************
焼き芋って一人で食べるとおなかいっぱいになるから多い。
半分こしたいよね、っていうお話。