[ う さ ぎ の か ぞ く ]





スーパーで目に付いた真っ赤なりんご。
ひとつ、手にとってカゴに入れた。
空だったカゴに、真っ赤なりんごがひとつ。
ころころと、カゴの中を転がりまわる。

じゃがいもとにんじんとたまねぎをカゴに入れた。
りんごも寂しくなくなったかな。
そんなことを思いながら、私はお肉売り場へ足を進めた。

今日の晩御飯はカレーだ。
徹が大好きなカレー。
いつも、おいしそうに食べてくれるから、私も作り甲斐がある。

急いで家に帰って。制服を脱ぎ捨てる。
Tシャツにデニムのスカート、ラフな服装だけれど許してもらおう。
エプロンをつけて、調理にとりかかる。

カレーを煮込み始めたら、徹が我が家にやってきた。
もちろん、バスケ部の弟も一緒に帰ってきた。
玄関へ迎えに行けば、かばんを放り出して、二人が倒れこんでいた。
笑って迎えるのが、私の日課だ。
それにしても、今日は帰ってくるのが早い。
いつもは、晩御飯が冷めてしまうような時間に帰ってくるのに。





「おかえり。走って帰ってきたの?」
「ただいまー。原田さん、カレーの匂いを嗅ぎつけて途中から走ってたし」
「ただいま、!俺、カレー大好きだし」
姉ちゃんより?」
「それは悩むなぁ・・・」
「そこ、悩むとこ!?」





玄関で大笑いする徹。
私はむっとして、スリッパ飛ばし大会をする。
スリッパの飛距離はたいしたことなかったけれど、徹の頭にジャストミート。
スリッパを回収して、サラダ作りを開始した。

炊飯器から湯気が立ち上る。
おいしいごはんが炊けますように。
今日も、徹と楽しい時間が過ごせますように。

サラダに盛り付けるトマトを取り出すために冷蔵庫を開いた。
野菜室のトマトのパックを手にして気づいたことは、一緒に入れたりんごがないこと。
庫内を探したけれど、見当たらない。

きょろきょろしていると、リビングのソファでくつろいでいる弟が突然はしゃぎだした。
何事?と思い近づいてみると、テーブルの上にスペアのまな板が置かれ、徹がりんごの皮を剥いていた。
しかも、うさぎに見えるように、皮をうまく残している。





「姉ちゃん見て見て!原田さんってばうさぎりんご作れるんだって」
「まあな」
「すごーい。やり方教えてよ。私、うさぎりんごできないんだよー」





なぜか三人でうさぎりんご作りをする。
慣れないから私のうさぎは下手だけど、うさぎに見えるから初めてにしては上出来だと思う。
それぞれが作ったうさぎを手にして記念撮影。
私がうさぎを口に運ぼうとしたら、徹に止められた。
首をかしげると、徹は自分のうさぎと私のうさぎを交換する。
が作ったやつが食べたい」と言って、徹は私が皮を剥いてうさぎにしたりんごを食べた。
私は、徹が作ったうさぎさん。
口に運べばシャキシャキしたりんごの食感。
キッチンで煮込んでいるカレーの香りがリビングまで漂ってきた。









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アットホームな話を。
カレーは作りません。ハヤシライスかシチューのみ。

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