[ 闇 夜 の 日 の 出 ]
振られた。
に恋人がいるなんて聞いてないぞ!
しかも、葉山崎の高岩覚司ってか。
勝てっこないだろ、先輩じゃんか。
俺は、上の空で部活帰りの夜道を歩いていた。
風の噂で、の話を聞いた。
成人してたら自棄酒だな。けれど、未成年だから酒は飲めない。
久しぶりに炭酸飲料を買って飲んだ。
バス停のベンチに座った。
もう終バスは行ってしまったから、座っていてもバスが目の前で止まることはない。
夜空を見上げたら、星が輝いていた。
ずっと憧れていた子には好きな人がいて、その好きな人と両思いで恋人同士になっている。
俺は、永遠の片思いをする。
俺と一緒にいるときに笑ってくれたのも、試合の応援に来てくれたのも、全部一人の友人としてということ。
少しは脈アリかと思っていた、俺がバカだった。
夢見てたんだな。妄想してたんだな。それでも幸せだったよ。
「だっあーーーーー」
「何叫んでるの?あ、青春してるんだね」
「うわっ、、なんでここに」
「部活帰りだよん」
心臓がバクバクいってる。
あなたを想って叫んでいたなんて、言えません。
小心者ですみません。
「隣、座っていい?」と律儀に尋ねる。
俺は二回頷いた。
恋人同士じゃないから、二人の間にある微妙な距離。
その空気感に酔う。
乙女か、俺は。
こんな俺を見たら、高柳が鼻で笑うだろうな。
チラと横目でを見た。
見ているこちらが切なくなる表情。
きっと、高岩さんのことでも想ってるのだろう。
俺に、勝ち目は無い。入り込む、隙間も無い。
沈黙を撃つ破ったのは、。
「ねぇ、原田くん」
「は、はい?」
「アハハ、なんでそんなに畏まってるの?今日の原田くんはちょっとおかしいよね」
「俺はいつもおかしいからいいんだよ」
彼女が笑ってくれると、それだけで嬉しくなる。
単純だな、俺。
俺にキスしてほしいとか、抱きしめてほしいとか、そんなふうに思ってもらえればもっといいんだけどな。
そんな夢のような話、今はどこかへ放り投げてしまえ。
は、俺の手元の炭酸飲料を指差し、「ちょっとちょうだい。のど、渇いちゃって」と言うのだ。
か、間接キス?
そんなこと気にする年頃でもない。
いや、でも、やっぱり好きな人とそうでない人とでは違いすぎる。
例えば、相手が高柳だったら、特に何も思わないだろう。
炭酸飲料のペットボトルをに渡した。
はそれを少し飲み、「ありがとう」と言って俺に返す。
ペットボトルの飲み口を凝視する。
手が震える。
どんだけ恋する乙女なんだ、俺???
は、空を見上げていた。
「原田くんも聞いたでしょ、私の噂」
「あ、あぁ、高岩さんのこと?」
「そ。信じらんないよね、高岩さんって従兄なの、私の」
「え?」
「従兄なの。覚司くんって呼んでたから周りに誤解されたみたい。むこうもって名前呼ぶしね。
小さい頃からよく遊んでて、兄妹みたいなもんだからさ、それが他の人たちには恋人同士に見えちゃったみたいね」
風の噂は、所詮、風の噂。
夜なのに、目の前に日の出が見えた。
そんな俺とは対照的に、は落ち込んでいた。
根も葉もない風の噂を気にしているのだろうか。
「感じ悪いもんね。こういう噂がたっちゃうとさ」
明るく振舞っているようで、本当は酷く傷ついているような物言い。
首を振って否定してやれば、「優しいよね、原田くんは」と言って、少し微笑んでくれた。
俺は立ち上がる。
このまま話し続けていたいけれど、時間が時間だ。
終電すらなくなってしまう。
俺よりも小さい歩幅ではトコトコと歩いてくる。
ただ、俺の斜め後ろにいて姿が見えない。
俺の隣を歩くのは嫌なのだろうか。
振り返ると、の澄んだ瞳と目が合う。
ドキリとする。
この目で、誰を想うのだろう。何を見ているのだろう。
「あのさ、隣、歩いてくれない?嫌ならいいんだけど、見えないと不安になるから」
「あ、うん。ごめんなさい。誰かの後ろを歩いてるのがいちばん安心できるから」
「・・・なら、そこでもいいけど」
しばらくすると、は俺の隣を歩くようになった。
人通りもまばら、車でさえ滅多に通らない暗い道。
背中を守ってもらえたほうが安心できるはずだ。
それでも後ろを歩きたいのは、俺の背中を見ていたいから・・・そんなバカな!
他愛も無いことを話しながら、駅への道を歩いた。
駅に着いたらお別れだ。
俺の乗る電車と、が乗る電車は違う方向へ進む。
「また明日ね。こんどファンタのお礼に何かおごるよ」と、笑顔で俺に別れを告げる。
脈アリか、否か。
わからないけれど、振られてはいない。
明日から、また元気に頑張れそうな気がした。
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風の噂が徹くんにも伝わってしまって、ショックを受けているヒロインさん。
なんとなく察してもらえれば嬉しいです。