[ こんなに好きになってごめんなさい ]
バレンタインデー。
朝練が終わって教室へ向かう途中、なんだかよくわからないうちにあれやこれやと手渡され、俺の両手は塞がってしまった。
教室に入ろうとしても、手が塞がっているから扉を開けることが出来ない。
途方に暮れていると、小さい手が扉を開いてくれた。
手の主を見れば、がそこにいた。
「高校でもモテモテだねぇ、徹ちゃん」そんなことを言ってニヤっと笑い、は教室へ入っていく。
俺が席につくと、野郎共が集ってくる。
事前情報で、俺が大量にバレンタインのお菓子をもらうことを知っていたのだろう。
「よこせ!」「くれ!」と頼み方の礼儀を知らない輩ばかりだ。
呆れた顔でいると、ガラガラガラと音をたてて教室の扉が閉まる音。
扉の方を見れば、が扉を閉めていた。俺のかわりに。
気が利くのは昔から。
それ以外にもたくさんいいところがあって、幼馴染にしか知りえない特権を嬉しく思っていた。
好きで、
好きで、
でも、想いを伝えられず、以外の人と付き合ったりもした。
けれど、いつものことを見ていて、のことが気になって、
俺には彼女がいてにも彼氏がいる、そんな状態になったこともあった。
中学二年生の秋に突然転校してしまったと、編入先の剣崎学園で再会できるとは夢にも思わなかった。
夢じゃない、これは現実。
「そこに便乗して、私もお菓子をあげちゃったりするんだな」
そんな声が聞こえると、机の上に山積みにしたバレンタインのプレゼントの上に、更にプレゼントが置かれる。
置いた主は。
ニコっと笑って自分の席へと戻っていく。
「いいなー、さんからもらいやがって」「よこせ!」「くれ!」と野郎共の声が耳障りだ。
「徹の口に合うかどうかは不明ですが」
「合うに決まってんだろ!」
「嬉しいこと言ってくれるよね、徹は」
ニコニコ笑っては自分の席につく。
あぁっ、嬉しすぎて顔が緩んでしまう。
机の上に、からもらったプレゼントだけ置き、しばらく眺めていた。
嬉しすぎて、心臓がバクバクいってる。
どうかしてるよ、俺。
プレゼントに手を触れようとしたら、指先が震えていることに気づいた。
動揺している?
違うな。
緊張している。
爪が触れるか触れないか、そんなところでチャイムが鳴った。
一つため息をついて、机の上のプレゼントの山を片付けた。
「好き」と伝えたら、どういう反応をするのだろう。
笑って流すか?
断るか?
同じ気持ちだと言ってくれるか?
また、ため息をついた。
「幸せが逃げてくぞー」前の席に座る友人に囁かれた。
難しいな、幼馴染は。
小さい頃から知っている。だからこそ、長く続いた関係を変えるような行動に出ることができない。
放課後の部室。
部活が始まったから、部室には誰もいない。
ホームルームが長引いた上に、掃除当番だったから掃除もして、部活の開始時間に間に合わなかった。
かばんに入れた、からのプレゼント。
そっと、開いてみた。
チョコマフィンらしきものが入っている。
添えられたカードには『親愛なるあなたへ』と癖のある字で書かれていた。
また、ため息をついた。
そこに恋心はあるのか?ただの友情か?
これ以上、俺を困らせるのはやめてくれよ!
マフィンを一口かじった。
甘い、甘い、甘い。
勝手に困っているだけか、俺が。
だったら、この壁、ぶち壊すしかないか。
部活用のTシャツとハーフパンツに着替えた。
気合を入れて、部室から飛び出す。
目の前には女学生がひとり、こちらをまっすぐ見ている。
それはよく知る人物で、できれば部活の後に会いたかった人物。
「うわお、徹いたんだ?」
「、何やってんだ?っつーか、掃除当番だったしな」
「そっかそっか。ではでは、私はこれにて」
「何しにきたんだ???」
クエッションマークを頭上にたくさん浮かべていると、はニコっと笑った。
あぁっ、どれだけ俺の心を掻き乱せばいいんだ?
理性が保てない。
俺はから目を逸らして、体育館へ向かおうとした。
すると、手首をぎゅっと掴まれる。
振り返れば、が俺の手首を両手で掴んでいた。
と向き合えば、の様子が変だということに気づいた。
病気という意味ではなくて、オドオドしている、モジモジしている、緊張している!?
「あ、えっと、その・・・」
「、大丈夫かぁ?」
「大丈夫じゃない!なんで気づかないんだ、バカー!!!こんなにこんなに、徹のこと好きなのに!!!」
「はぁ???」
顔を真っ赤にして叫ぶ。
驚いて言葉が出てこない俺。
中途半端な時間だから、部室の周りには誰もいない。
沈黙が続き、それ打ち破るようには回れ右をして、俺から離れていく。
壁を、ぶち壊せなかった。
ぶち壊された。
慌ててを追いかけて、追いついたら後ろから抱きしめてやった。
嬉しすぎて、嬉しすぎて、顔が緩んでしまう。
こんなにこんなに、のこと好きになってごめんなさい。
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かなり長期戦になってしまったお話です。
最後、どうしようか迷ったあげく、ヒロインさんに告白させました。
たまにはいいよね、こういう話も。