[ 夕焼け、さよなら、また明日 ]





いつまで経っても追いつけないな。
並んで歩きたいだけなのに。
年上だから、俺と比べて人生経験は絶対的に豊富なんだ。
たった一歳年上なだけでも。
そんなさんが俺と一緒にいてくれるのは、どうして?

俺とさんが付き合いだして、もう二年近く経つだろうか。
誰もが認めるベストカップル、そんな風に呼ばれていた。
実際にそうだろうか?
一つ年上の姉さん女房がよい、という話は昔テレビ番組で聞いたような覚えはあるけれども。





「なんかさ、私と徹くんがベストカップルーなんて言われてるみたいだけど」

「けど?」

「まさにそうだよね!」





俺は拍子抜けしてガクっと倒れこんだ。
そんな俺を見てクスクス笑うさん。
この飄々とした振る舞いが好きだ。
俺には真似できない。
あぁ、そうだ。高柳と少し似ている気がする。
女版、高柳学だ。但し、発言等は除く。高柳はこんな拍子抜けするようなことを言わないから。

並んで歩きたい。
時々、前から引っ張ってやりたい。
少しくらいは振り回してみたい。

部活を終えた俺とさんは、夕暮れの街を並んで歩く。
少し指先が触れれば、そのまま手を繋ぐ。
手を繋ぐだけで、心まで繋がっているような気がする。
手を繋げなくなったら、きっとこの関係は終わりなんだろうな。
制服デートは、次の四月が来たら終わりだ。
高校三年生のさんは、大学デビューだ。
俺はあと一年、高校生のまま。





「制服デートも、もうすぐおしまいだよね。なんだか淋しいなぁ」

「そうですね。卒業かぁ、早いっての」

「でも、あっという間に徹くんも卒業しちゃうんだよ」

「卒業できっかな、俺」

「バスケばっかりやってないで、勉強もしてれば大丈夫だよ!」





さんに大丈夫と言われれば、本当に大丈夫な気がする。
単純だな、俺。
好きな人に言われたことは、すべて現実のものになると思っている。
ふと、そう思えることが幸せなんだと思った。
誰かを信じたり、好きになったり、想ったり、大事にしたり。

「本当に、徹くんと出会えてよかった」
夕焼け空を見上げて、さんが言った。
どういう意味だろうと考えて、その疑問を消し去った。
本当に、そう思ったから口に出しただけ。





「本当に、楽しい高校生活だった。徹くんに出会うまではつまんなかったけど」

「俺も、剣崎にくるまではダメ人間だったけど、こっちにきて変われたなー」

「どれもこれもさんがいたおかげでしょ?」

「そうっすね」





二人で笑い声をあげた。
理由なんてどうでもいい。いや、少しは気になるけれど。
さんが俺の隣にいてくれるのなら、なんでもいいや。
四月になったら、さんに会える時間も少なくなるだろう。
会えない間に成長して、驚かせてやろう。









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徹くんはどうがんばっても大人っぽくなれない気がする…。
そんなところが年上の母性本能をくすぐるのかも。

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