[ か ら 揚 げ く ん と 愛 の 唄 ]
カレーを食べて、一緒にテレビのバラエティー番組を眺める。
なんだか弟と一緒にいるみたい。
気がつけば夜の八時を過ぎていたら、慌てて原田くんの家から飛び出した。
原田くんは「危ないから」と言って、自転車を押して私を駅まで送ってくれた。
お礼を言って「またね」と笑顔を送れば、「はい、また今度」と言って笑顔をくれる。
心臓が鷲づかみにされたようだ。
きゅーっと締め付けられる。
ほろ酔いでも、意識はきちんとあるんだ。
原田くんが何を言おうとしたかわかる。
本当に?本当に私が好きなの?
早く素面になって気持ちを整理したい。
家に着いて、数ヶ月前の日記を取り出した。
就活で悩んでいたこと、原田くんの前で泣いてしまったこと。
もっと前の日記を読めば、原田くんのことがたくさん書いてある。
誰かに読まれたらどうするつもりだったのだろう。
過去の自分の行動に呆れる。
翌朝、携帯電話は何らかの着信を知らせるサインを放っていた。
確認すると、一通の受信メール。
原田くんからだった。
内容は「日曜日の夕方、空いてませんか?」というもの。
日曜日の予定をスケジュール帳で確認すると、ゼミのレポート締め切りが正午とだけ書いてあった。
夕方なら大丈夫。
私はすぐに返信する。
ゼミ室で論文を読み、レポートを書く。
先生や友達とおしゃべりしたり、インターネットで新作の服をチェックしたり、平和な日々。
就活していたときと比べたら、なんて平和なんだろう。
電車に揺られて気持ちの整理をする。
私は、原田くんが好き。
それは恋愛感情?
うん、そうだ。
初めは弟みたいだと思っていたけれど、いつの間にか恋に落ちていた。
恋に落ちるのは、どうしてこんなに簡単なのだろう。
けれど、落ちたら抜け出すのが難しい。
日曜日の夕方、ゼミのレポート提出を終えて、友達とカフェでくつろいでいた。
原田くんと待ち合わせしている駅の傍。
失恋した友達のグチにつき合わされている。
もうすぐ原田くんが来るんだけどな。
パフェを食べていると、「うまそうっスね」と声を掛けられる。
原田くんだ。
目の前の友達は挙動不審。「どういうこと?」とキョロキョロしている。
誰にも言ってないから、原田くんのことは。
だから、誰も知らない。
「カテキョしてた子だよ、アリアちゃん」
「あ、そか、カテキョしてたんだよね、ちゃん。あ、もしかしてデート?」
「デートじゃないけどね。ごめん、アリアちゃん」
私は急いでパフェを食べきり、原田くんの隣に並ぶ。
原田くんは予備校帰り。
駅前のロータリーは待ち合わせをする人たちであふれかえっていた。
その中に紛れる。
原田くんは私の歩幅に合わせてくれている。
けれど、人が多すぎて離れそうになった。
慌てて原田くんの手を掴む。
原田くんは止まってくれた。
私は原田くんの手を掴んだまま、離せない。
しばしの沈黙。
「さん、もういいですよね?」
「え、あ、手?ごめんごめん」
「そうじゃなくて、ね、もう繋いでもいいですよね」
私が驚いている間に、原田くんは私の手を引き歩いていく。
手を、繋いでいる。原田くんと。
こうすれば、離れない、はぐれない。
隣にいて、いいのだろうか。
やっと、隣にいられるんだ。
恋人同士に見えるのだろうか、私たちは。
グーと原田くんのおなかが鳴る。
私が笑うと、原田くんは少し顔を赤く染める。
急に早歩きになり、私は足をもたつかせた。
早歩きの原田くんが向かったのは、近くのコンビニ。
レジカウンターでから揚げを注文する。
コンビニのひさしの下に並んで立つ。
原田くんはおいしそうにから揚げを食べている。
私は気持ちを引き締める。
「私、原田くんのことが好きなの」
「俺も、さんが、好き」
「両想いだね、私たち」
「そうですね」
なんてさっぱりした愛の告白なんだろう。
ロマンチックなんて程遠い。
コンビニとから揚げと私たち。
「俺だけの、家庭教師でいてくださいね」
原田くんのこの言葉が忘れられない。
私は、原田くんだけの家庭教師でいるから。
原田くんも、私だけの教え子であってください。
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徹くんは超自然体な感じで。
コンビニとかTVゲームとかが似合いそう。