[ と な り ]





以外対。遺骸隊。異が遺体。胃が痛い。
キリキリと胃が痛い。吐きそうだ。
これ以上、ストレスを増やさないで。

高校3年生の受験生の家庭教師。
教えればすぐに覚えて、応用させることもできる頭のいい子。
笑うとかわいい。
ふてぶてしいところも、気に入っている。
弟ができたみたい。
それで終わればよかったのに、私の気持ちは加速して行き過ぎてしまった。
恋をしている。
原田くんに。

就職活動真っ最中の私。
家庭教師なんてやっている場合じゃないのに、原田くんにお願いされたら辞めることなんてできない。
けれど、毎日が鬱。
終わりが見えない毎日。
毎日、真っ黒な太陽が私を照らしてる。





「会うたびに、なーんかローテンションになってません?サン」

「就活、鬱!」

「今度はどうなんスか?」

「わかんない」





こんな家庭教師じゃダメだ。
なのに、原田くんは「辞めたらダメ」の一点張り。
お願い、私を解放して。
家庭教師と、この片想いから。

質問されたら義務的に答えて、雑談になれば普通に受け答えして。
ひょんなことから、私が受けて落ちた会社の名前が出てきたから、ショックで俯いてしまった。
口が、開かない。
身体が、動かない。
だって、第一志望の本命だったもの。
縁がなかっただけ。
私は全力を出したから、悔いはないはず。
それなのに、涙はこぼれるんだ。

私が泣いているから、原田くんは焦っていると思う。
泣き止みたくても、今の精神状態ではムリ。
お願いだから、しばらく休ませて。
心の負荷は、全部取り除きたい。

「ごめんなさい」といつもの明るさが全くない原田くんの声が聞こえた。
それをもう一度繰り返して、原田くんは私をぎゅっと抱きしめた。
一瞬、涙が止まった。
私の全機能が停止したようだ。
心臓も、止まったのかもしれない。





「ごめんなさい。そこまで苦しんでるとは思わなかったから、俺はいつもの調子でやっちゃって」

「はらだくんは、わるく、ないよ」

「心の中までは見えないから、傷つけてるんスよね。ほんと、ごめんなさい」

「ほんと、に、わるくないから、だいじょうぶ」





疲れや苦しみ、弱音、全部吐き出した。
うまく、吐き出せた。
泣いたらスッキリした。
涙は、感情の表れだから、流せるということが大事なんだ。
真っ赤な目元のまま笑ったら、原田くんは「笑ってるほうがいいっスね」と言うのだ。
そう、泣いている顔より笑った顔のほうがいい。
きっと、しばらく泣かなくても大丈夫。
だって、前に進むしかないから。
立ち止まっていたら、何も変わらないし動かない。

手のひらで涙をぬぐった。
少し前に進めそう。
「今日の授業はなかったことにして、ね?」と言ったら、原田くんは首を振った。





「むしろ、今日の授業はタメになりました」

「どうして?」

「些細なことで、人を傷つけるってことがよくわかった」

「まぁ、そうだよね。デリケートな問題だもんね、就活って人生かかってるし」

「最低ですよね、さんを泣かせちゃって。もうほんと、俺っていつもこう、最低だな・・・」





自嘲気味に話す原田くん。
「就活終わったら、俺にいろんなこと教えてください。それまで待ってますから」
真っ直ぐ私を見て言う原田くん。
私は大きく頷いた。
教えることで見えてくることがたくさんある。
就活が終わったら、またあなたの傍にいさせてください。









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両想いなんだけど気づいていない人たち。
就活中は先が見えなくてダメですね。。。
本命の企業の結果が出る前に書き出したものです。

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