[ フ ル ー ツ ケ ー キ ]





小麦粉、砂糖、バターに卵、ベーキングパウダー。
ドライフルーツは細かく刻んでお湯にさっと通す。
ひたすら混ぜる。かき混ぜる。
気持ちをこめて、混ぜるんだ。
オーブンレンジで30分焼くと、こんがりフルーツケーキのできあがり。
ブランデーを染み込ませれば、少し大人の味がするケーキになるんだ。

もらって喜んでくれる彼氏もいない。
だから、私がケーキを作るのは友達のため。
ハッピーバースデー、アンコちゃん。
アンコちゃんはあんこが大好きだからそんなニックネームがついたのだけれど、
和菓子の作り方はよくわからないから今回は洋菓子でガマンしてもらう。

焼きあがったケーキを箱につめて、あとは明日を待つばかり。
週明け初日の月曜日。
みんなに会うのが楽しみだ。

季節は12月。
寒い。とても寒い。
風邪をひかないように、マフラーをして学校へ行く。
8時に教室集合。
ゆっきーがアンコちゃんを連れてくるはずなのに、着いた教室にはゆっきーと他の友達しかいなかった。
どうやらアンコちゃんがインフルエンザにかかってしまったらしい。
みんなが用意したバースデープレゼントは、渡せない。
もちろん、私のケーキも。ケーキは日持ちしないから早く食べてしまわなければ。
もう一度、アンコちゃんにはケーキを作る。必ず。

浮かない顔をして、女4人でフルーツケーキを囲う。
私は持ってきたナイフでケーキを6等分する。
4等分しないのは、4分の1だと大きすぎるから。
「いただきまーす」と声をそろえた。
口に運ぶと、フルーツの甘い味とブランデーの大人の香りがする。
突然、ガタガタと大きな音を立てて教室へ侵入者が現れる。
身構えたけれど、クラスメイト。
私の隣の席の原田くん。





「あれ、早いんだな、おまえら」

「アンコちゃんの誕生日パーティーするはずだったんだけど、インフルエンザだってさ」

「やっぱ流行ってんだな、インフルエンザ。俺も気をつけねぇと」





広い教室の真ん中、私の席を囲ってケーキを食べていた。
だから、原田くんの目に、ケーキが留まるのは当たり前。
「何それ?うまそう」と目を少しだけ輝かせる原田くん。
私は「作ったんだけど残っちゃうからどうぞ」と差し出す。
原田くんのお口に合うだろうか。
少し不安を抱えつつ。
けれど、原田くんの反応は意外なものだった。





「え、これが作ったの?すげー!!!手作りケーキ。いっただきまーす」

「ど、どうかな?」

「うん、うまい!!手作りケーキとか初めて」

「え?お母さんとか作ったりしないの?バレンタインとかいっぱいもらってるじゃん」

「母ちゃんは作んねぇな。それに、バレンタインのチョコとか怖くて食えねー。好きな子だったら別だけど」





「ごちそうさま」と言う原田くん。
目がキラキラ輝いている。こんな原田くんを見るのは初めてだ。
ちょっと不良っぽくて付き合いにくそうだなって思っていたけれど、こんな無邪気な表情を見せられるとキュンとする。
私の顔を急にのぞきこんで「もう一切れ、いい?」と尋ねる原田くん。
意識しだしたら止まらない。
声も出せず、ぎこちなく頷いた。

8時半が近づくと他のクラスメイトがたくさんやってくる。
私たちの集まりはお開きに。
ホームルーム開始のチャイムが鳴る。
そっと原田くんが私にささやいたのは、「俺の誕生日になったら、ケーキ作ってくれる?」って。
ねぇ、「好きな子だったら別」っていうのは、好きな子の手作りお菓子しか食べないってこと?
それって私が好きってこと?
私の胸のドキドキは、恋ってやつ?









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女同士で手作りお菓子を交換したりするのは普通だけど、
男の子はそういうのないよなぁ。
女にとっての手作りの価値と、男にとっての手作りの価値は全然違うのかも。
私のフルーツケーキならいつでも作りますヨ(≧▽≦)

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