[ り ら っ く す ]





ガチガチに固まってた私の心をほぐしてくれるのは、いつだってそう。

毎日が戦闘だ。
時間との戦いだ。
時間が足りないのは、時間をうまく使えないからだ。
効率が悪い私は、1日が30時間あっても足りないくらいなのだ。
レポートが仕上がらない。
仕上がるまで、他のことには手をつけない。
そう決意したものの、レポートが仕上がる気配は少しも感じられない。
締め切りはいつだ?
今日は何月何日何曜日だ?
「締切日」引く「今日」は何日だ?
あぁ、1日だ。
正確には、あと23時間だ。

とにかく外界から遮断された空間にいないと集中できない。
だから、私は携帯電話の電源をずっと切っていた。
突然、部屋の扉をノックされ、驚く。
扉をそっと開いたのは、母親ではなくて、徹くん。
「どうしたの?」としか、言えなかった。





「どうしたもこうしたもないっ!
 メールの返事ないし、電話は繋がらないし、どうなってんの?心配したっつーの」

「あ、ごめんなさい。レポート、明日までなのに、全然終わってなくて」

「まぁ、の顔見れたからよかったけど」

「うん、ごめん」





徹くんと会話しているものの、私の頭の中はレポートでいっぱいだった。
自分が何を言ったのかも、徹くんが何を言ったのかも、全く頭の中に残らなかった。

パソコンに向かって、キーボードに手を添える。
添えた手は、ほとんど動かない。
目を閉じてみた。
息を吐いた。
空気を吸った。
私の肩を揉むのは、徹くん。

「リラックスしろよ」とささやかれた。
そうだ、ずっと緊張していたんだ。
焦って自分を追い込んでいた。
余分な力を抜いて、もう一度やり直し。
パソコンの横に並べた資料を漁る。
目に付いたプリントに、大切なことが書き記されていた。
何度も見たプリントなのに、見逃していた。
見えるはずのものも、緊張していたら見えないんだ。
キーボードに添えた手が動いた。
キーを叩くと、レポートが書けた。

少し肩の力を抜くだけで、世界がひっくり返ったかのように変わる。
不思議だ。
私の力だけではどうしようもなかったのに、徹くんの力が加わるだけで私の力のベクトルが変わるんだ。
力の使い方がうまくないだけ。
力んでしまうだけ。
力を抜いて、方向を変えて力を入れなおせばうまくいく。

「これはおまけ」
そう言って、徹くんがパソコンの横に置いたのはリラックマのぬいぐるみ。
「がんばれよー」と言って、徹くんは私の頭をポンポンと叩いて帰っていった。
おそらくUFOキャッチャーでとってきたぬいぐるみ。
大学受験生が予備校を放って何やってんだか。
そんなことを思いながら、私はキーを叩き続けた。









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補足ですが、大学生の彼女さんと高校3年生の徹くんという設定で。
アイル14巻の徹くんを見て、
「ちゃんと予備校行って勉強してるんだね」と感心しました。
失礼ですね、私(汗)

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