[ お な べ の フ タ ]





「うわお、徹じゃないですか」
おおげさに驚く。そして、抱えていたプリントを廊下の床にばらまく。
がっくりと肩を落としたは、しゃがんでそれをかき集める。
俺も、しゃがんで集める。
より先に立ち上がったから、がしゃがんでいる姿が見える。
カーディガンが上がって背中が見えている。
今度は俺ががっくりと肩を落とす番。
わりと無頓着なだから、こういうことはよくある。
昨日たしなめたばかりなのにな。

基本的には天然なのに、突然鋭いところを突いてくる。
最近、不意打ちをくらってないなぁと思いつつ、にプリントを手渡す。
「ありがとう」と笑う
ある意味、その笑顔は不意打ちだ。
は職員室に向かって歩いていった。
後姿を見送って、俺は部活に向かう。

トイレに行こうと思い部活を抜け出した。
「またサボるんじゃないだろうな?」と高柳に皮肉を言われたけれど、図星ではないから軽く聞き流す。
体育館を飛び出すと、が花壇の前で何かをしている。
顔を見なくても、後姿だけでとわかる。
立て膝ついて、カメラを構えているようだ。
カメラの先には、花壇でくつろぐノラ猫の姿があった。
写真部のは、放課後になると、デジタルカメラを片手に校内をうろついている。
ただでさえ短いスカートから足を出しているのに、これでは「触ってくれ」と言っているようなものだ。
ため息をついて、俺は後ろからに抱きついた。
「きゃー」と響き渡る程の大声で叫ぶものだから、俺は焦った。
慌ててから離れると、案の定、体育館の中から何人か顔をのぞかせていた。
そして、はすねている。
大声を出したせいで、ノラ猫が逃げてしまったのだ。





「だから、は無防備すぎるんだっての」

「知らないわよ、普通にしてるだけ!っていうか学校で襲わないで」

「襲ってねーよ。っつーかトイレに行く」

「さっさといってきな」





が妙に落ち込んでいるのはベストショットを逃したからだろうか。
悪いことをしたな、そう思いながら校舎の中へ駆け込んだ。
と高柳の話し声がするような気がした。

トイレから戻ると、花壇の前にはいなかった。
高柳の姿だけがあって、駆け寄ると「いじめてやるなよ」と言われた。
俺が誰をいじめたのだろう。
俺が、を?
高柳の視線の先、カメラを手にしたが購買のおばちゃんと話をしていた。
何が、いけなかった?

午後7時、部活も解散になる。
いつもどうりだらだらと片づけをして着替えて帰る。
校門を出てすぐの所で、が壁にもたれていた。
こんな時間までいるのは珍しい。
名前を呼ぶと、少しだけ笑ってくれた気がする。夜だから、よく見えなかった。





「徹を待ってたの」

「遅いだろ、しかも外で待ってたのかよ・・・危ないじゃん」

「待たない方がよかった?私がいない方がよかった?」





真面目な顔で俺に尋ねる
「いない方がよかった?」そんなふうに返事がくるとは予想外の出来事だ。
面食らっていると、は「そっか」と納得したように言った。
理解できていない俺は、動揺する。
俺のいないところで、話が進んでいるのか?といても、俺は部外者か?

「無防備だったらダメなの?」と困った顔では俺に尋ねた。
きょとんとしている俺を放って、は歩いていく。
俺を待っていたのに先に帰るかなぁと思いつつ、を追いかけた。





「ダメってわけじゃないけどさ、なんつーのかな、俺はいいけど他の奴らが・・・」

「襲っちゃうかもって?そんなことないよ、だって私だよ。襲う価値ないもん」

が思っているほど、はモテないキャラじゃないからなー」

「え、そうなの?」





目を丸くしている
首をかしげて考え事。
「あ!」と小さな声をあげると、「だから無防備、無防備って最近ずっと言ってたの?」と言うのだ。
気がつくのが遅いよ、
がっくり肩を落とす俺。本日2度目。
を奪われないように、の行動を抑えて守ろうとしている。
自分に自信がないから?を惹きつける魅力が俺にはないから?

「てっきり嫌われたのかと思ったよ」と笑顔で言うは、すがすがしい気分のようだった。
逆に俺は落ち込む。
に対して「無防備」と言う資格なんてない。





「どうしたの、徹?落ち込んでる?」

「いや、なんでもない」

「絶対なんかある!」





に嘘をついてもすぐにばれる。
だから言おうとした。けれど、に先を越される。
全部お見通し。
の鋭さには敵わない。





「あ、わかった。無防備だと男を誘っちゃうから、徹から私が離れるのが嫌だったんでしょ?
 自分に自信がないからそうしてたんだって悟ったとか?」

「・・・・・・」

「無言は肯定ととれるからね」

「鋭いよな、そういうときだけ」

「だけ、は余計!!」





はクスクス笑いながらスキップしている。
「私は徹が好きだよ」さらりと言ってのける
俺も、ただが好きなだけ。
魅力がどうとか、もういいや。
好きだという気持ちを前面に押し出せば、離れないよ。









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誰かと比較すれば、必ず劣っているところが見えてしまう。
そういうときに勝てるものって愛しかない、っていうありきたりなパターンですな。
「おなべのフタ」はドラクエで序盤に女性陣が装備できる盾。
しょぼいよね(笑)

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