[ ア ン ダ ー ス タ ン ド ]





「はーらーだーくんっ」
背後から叫んでみると、原田くんは振り返る。
目と目が合えば、私は微笑むだけ。
原田くんの隣に並ぶ。
休日に、クラスメイトに会うなんて滅多にない。
バスケットをしている原田くんは、とびきりかっこいい。
授業中、居眠りしていて先生に叱られる姿は、なんだかかわいらしい。
そして今、私服の原田くんは、学校で見る姿とは違って、一層かっこよくてかわいらしい。
「なんだそれ?」と言われそうだけれど、かっこいいとかわいらしいの両方を持ち合わせているのだ。
母性本能をくすぐられると、ノックアウト!

私といえば、至って普通の格好。
ジャケットにひざ下丈のスカート、ブーツも個性的でもなんでもない。
ブルーのマフラーがアクセントになっているくらい。
しかも、そのマフラーですら学校へ毎日持っていってるから目新しいものはない。
大好きな人の隣にいられるのに、なんてこったい。
自分をアピールできるものが何もない。
そんな私を見て、原田くんはいじわるそうに笑うのだ。





「おう、じゃん。制服着てないと中学生だな」

「もーっ。背が低くて童顔だからしかたないでしょ」

「ははっ、冗談冗談。かわいいからいいじゃん」





素で言っているのだろう。けれど「かわいい」なんて言われたらドキドキして期待してしまう。
「あ、あ、ありがと」なんて、動揺丸出しの返事しかできない私。
声を出して、原田くんは笑っている。
私も、つられて笑う。
笑うと、楽しくなれた。

原田くんの手にはTUTAYAの青い袋。
中にはCDかDVDが入っているのだろうな。
私の手にはスーパーの白いビニル袋。
中にはお菓子が詰まっている。
原田くんは、私の持っている袋の中身を見て、ケタケタと笑う。





「買いすぎー。太るぜ?」

「いいのっ!食べたいときに食べなくきゃ。太ってもいいよー、もともと太ってるもん」

は十分細いだろ?っていうか、冗談だってわかれよー」

「だって、冗談に聞こえないよ」





そう、原田くんが言うと冗談に聞こえない。
全部、真実のように私に突き刺さる。
それは、私が彼を想っているから。
原田くんは困った顔をしている。
冗談が通じないから。
慌てて私は笑って「大丈夫だよ」と言うけれど、間が空いてしまえば説得力は無いに等しい。
ため息が聞こえた。
もうひとつため息。私が吐いた。
好きな人とお話できる嬉しい時間なのに、うまくいかない。
自分で首を絞めているのはわかっている。
全部、私が悪い。

「ごめんね」と小さく呟くと、原田くんはますます困った顔をする。
私はどうすればいいの?
俯くと、原田くんはバシバシ私の肩を叩く。
顔は、笑っていた。笑顔だ。
きょとんとしていると、原田くんは「ムリすんな」と軽い声で言う。
無理、していたのかな。
肩の力を抜いてみる。意外と簡単に抜けるものだ。
それは、原田くんの言葉のチカラなのかも、と思ってみる。
恋するオトメって素晴らしい。
少し、笑えてきた。
私の顔を見て、原田くんも笑う。





「ちょっとっ、顔見て笑うなんて失礼だよ」

「や、なんかっておもしろいなーって」

「なにそれ」

「表情豊かだなって」





それは、つまりバカってこと?
一喜一憂しすぎということ?
そう尋ねると、「はいはいはい、はバカだな」と言うのだ。
投げやりに言うのは、私が勘違いしているということを意味しているはず。
また、うまく話せなかった。
話せない・・・ううん、理解できていない。
私の足りない頭では、うまく原田くんと会話できないんだ。

「ま、そんなところが好きなんだけどな」

ぽかんと口をあけたままの私を放って、原田くんはスタスタ歩いていった。
「帰んないの?」と振り返って私を呼ぶ原田くんは、なんだか嬉しそうな表情だった。
私も、嬉しいよ。









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こういう、さりげない、告白と言いきれない告白、が好きです。

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