[ 屋 上 ]
たまにはぼーっとしたいよな。
そう思って、部活を抜け出してみた。
後で怒られるのは承知の上。
屋上へ飛び出して、セメントの上で大の字になる。
空は青い。
どうやら先客がいたようだ。
「誰もいないと思って・・・みっともない」と声が聞こえる。
先輩の声だ。
屋上の端から、昇降口近くの俺の元にやってくる。
「どうしたの?」と優しい声が耳に響く。
それだけで癒される。
「サボりです。それだけ」
「珍しいね。監督に怒られるんじゃないの?」
「そんなん、どーでもいいです」
クスクス笑う先輩。
俺の傍に腰掛ける。
甘い匂いがする。先輩が食べているアメの匂い。
深呼吸してみた。
空気は、リンゴのアメの味がした。
傍にいる先輩の顔を見る。
視線の先は空。
何を思って見ているのだろう。
俺も、先輩と同じ空を見る。
俺は何を思うのだろう、この空を見て。
ただ平和だ。
隣には大好きな先輩がいて、同じ空を眺められて。
それだけで荒んだ心が潤って癒される。
手を伸ばしてみた。
先輩の指先に少しだけ触れた。
また「どうしたの?」と優しい声が響く。
「手を繋ぎたいです」と言えば、先輩はふんわりと笑った。
そして、俺の手に、自分の手を絡ませる。
「これで、いいかしら?」
「あ・・・はい」
「そう、よかった」
俺は大の字に転がったまま。先輩は座ったまま。
手を繋いで、黙って空を見ている。
俺の思ったことが、手を通じて伝わればいいのに。
何度も何度も「好きです」と思った。
「そろそろ帰りたい」そんな声が聞こえた。
けれど、先輩の口から俺の耳に伝わったんじゃない。
幻聴?
手を繋いだまま起き上がる。
先輩はこちら見て驚く。
「そろそろ帰ろうかなって思ってたら、徹くんが起きたからびっくりしちゃった」
「帰りたいって声が聞こえたんです」
「え、私、口に出してた?」
「いや・・・以心伝心ですかね?」
また先輩はクスクス笑うのだ。
俺は立ち上がって、先輩の手を引き、立ち上がらせる。
「帰りましょう」と言うと、先輩は大きく頷いた。
手を繋いで、少しの間、一緒に歩いた。
俺は部活に戻る。
手を離すと、先輩は笑顔で手を振ってくれた。
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で、なんなのコレと言われそうですね。
徹くんのこういうお話書いたことなかったから。