[ ポ ッ キ ー ]
セメントで固められた屋上の床。
ベッドもふとんもソファもない、そんな所に寝転がる。
背中は痛い。当たり前だ。
けれど、真っ青な空が視界を占めているのが心地よかった。
ゆっくり大きく息を吐き出して、目を閉じた。
疲れたときは寝るに限る。
甘い匂いに誘われて、目が覚めた。
上半身を起こせば、「生きてんじゃん」と後ろから声が聞こえた。
振り返ればがいた。
手には新作のポッキーデコレ。
ポッキーゲームをするかのごとく、ポッキーを1本くわえている。
じーっと見ていれば、はポッキーを1本俺に差し出す。
俺は受け取ってそれを食べた。
甘い甘い苺の味。
口の中でとろけるそれは、俺の頭の中までとろけさせる。
少しはとかしたほうがいい。
疲れた頭は固まりすぎていて、何も考えてくれないから。
セメントの上に座った。
何も考えず足を投げ出した。
スカートはあまり長いとは言えない。
だから、の白い足が露出する。
俺しかいないからいいものの、は無用心すぎる。
盛大なため息をついて立ち上がり、の隣に座った。
は俺の思考を勝手に読み取ろうとして取り違え、ひとり怒っていた。
「何よ、私の足が太くて短いからってため息つかないでよ」
「バカ、そんなこと誰も言ってないだろ!足丸見え。ちょっとは恥らえよ」
「徹だからいーじゃん。たまにはダラダラさせてよね」
「お姫様はいつもダラダラしてませんかねぇ」
「わたくしはそのようなこと、いたしませんわ」
全く反省する様子はない。
呆れた。けれど、これがだ。
何も言わずにただポッキーを食べている俺と。
雲が早いスピードで動いているのがよくわかった。
隣にいるが、寂しさに耐えているのがよくわかった。
疲れているのは俺だけじゃない。
寂しいのはだけじゃない。
口から「ごめんな」と声が漏れた。
はきょとんとしていた。「意味がわからない」と。
「インターハイで試合のことばっか考えてて、疲れた。のこと、考える余裕なくってさ。
寂しい思いさせてごめんな」
「や、いいよいいよ、そんなこと。私なんかより、試合のほうが大切じゃん。
徹は疲れてるのに、私はのんきにポッキー買って食べてるんだよ」
「無理したって俺にはわかっちゃうんだよねー。寂しいって言えよ。
俺は疲れたー。疲れたからエネルギーくれよ」
「私のエネルギーなんてくれてやるわよ。
・・・えぇ、そうよ、そうよ、寂しくて心が寒いのよ。温めてよ」
少し頬を赤く染めながら、言葉をつかえながら言うはかわいらしかった。
思わず抱きしめた。
なんだかんだ言って、俺が疲れているのを知ってて、ここまで探しに来てくれた。
ポッキーは寂しさを紛らわすためのツールでしかない。
俺の手で、ちゃんとの寂しさの穴を埋めてやるんだ。
の頭をなでてやる。
「あったかいね」とのかわいい声が聞こえた。
のぬくもりはすごく甘い。
とけそうだ。
とけて流れ出しそうだ。
そのままセメントにしみこんで、どこか遠くへ。
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ポッキーデコレはうまい。けど高い。その価値はあると思う。
毎年冬の限定デコレを楽しみにしてます☆