[ ト レ ジ ャ ー ]





「やったー!シュート決まったよ」
はち切れんばかりの笑顔でが言う。
小さな公園のだだっ広いグラウンドに、野球の4つのベースとサッカーのゴール、バスケットボールのゴールといろいろあるのだ。
部活も休みで暇をもてあましていた俺は、公園でひとりバスケットの練習をしていた。
そうしたら、がやってきたのだ。そして、俺のボールを奪ってずっとシュートの練習をしている。

どうしてここにやってきたのかわからないし、俺がここにいると誰かに伝えたわけでもないし。
一体何なんだろうなと思いながら、俺は隅に置かれたベンチに腰掛けて、を見ていた。
まぁ、俺としてはが楽しそうにしているだけで十分だから、それでいいのだけれど。
は俺のことに構わず、ずっと3ポイントシュートのラインギリギリからシュートの練習をしていた。
急にボールを俺にパスする。
目を輝かせて「徹の練習が見たい」と言うのだ。
俺はゆっくり立ち上がり、レイアップシュートの練習をする。
10回ほどシュートを決めて、ベンチに座っているであろうの姿を探すと、はベンチの前で呆然と立ち尽くしていた。
俺が眉間に皺をよせていると、は目を大きく開いて「かーっこいい」と真顔で言うのだ。





「かーっこいい、すごいよ、徹」

「は?」

「惚れちゃったよ」

「っつーか、前から惚れてんだろ」

「惚れなおしちゃった。ねぇねぇ、もっと、もっと見せてよ、かっこいいところ!」





かっこいいところをもっと見せてと頼まれて、悪い気はしない。
調子に乗って俺はシュートの練習をたくさんする。
もちろん、たまにシュートを外すことだってある。そういうときに、は俺と一緒に悔しがってくれる。
まるで一心同体、俺とはふたりでひとつ。
こんなに繋がっているのは初めてだ。
手を繋いでいるときよりも、キスしているときよりも、抱き合っているときよりも、なんだか不思議なくらい、繋がっている気がする。
お互いの身体に触れ合っている部分なんて全くないのに。ふたりのキョリも、そんなに近くないのに。

接触だけがふたりの繋がりじゃないと、今になってやっとわかった。

俺がこんなことを考えていると知らずに、は笑っている。
ただ無邪気に、俺がバスケットをしているところを楽しんでいる。
そういえば、とこうして遊ぶのは久しぶりだな。
いつもデートか学校、試合のときくらいしか会わないから。
公園でバスケットをしているなんて、珍しい。いや、初めてかもしれない。

は突然走って俺の元に駆け寄る。
そして手の中のボールを奪って、ドリブルしてゴールへ向かっていく。
シュートが決まった。ボールが地面に落ちる。
はボールを拾い上げ、俺にパスする。
突然のパスだったけれど、俺はきちんと対応できた。
受け取ったボールを大切にゴールへと運ぶ。
ゴールのリングへボールが吸い込まれた。
ボールを拾い、今度は俺がにパスする。
ずっと繰り返した、シュートを決めて相手にパスすることを。

なんだか、小さい頃に戻ったみたいで、楽しかった。
勝つことにこだわらず、ただ好きだからできたバスケット。
遊ぶための、楽しむためのバスケット。
バスケットが好きになった頃を思い出した。
挫折したときのことを思い出した。
もう一度、バスケットをやろうと決心したときのことを思い出した。

いろんなことを思い出した。
ただ、と遊んでいただけなのに。
好きなものは、大切なものは、宝物は大切にすべきなんだと、改めて思った。





「徹!しっかり!」





の声で目が覚めた。
俺の目の前にボールが見えて、気づけばガツンとボールは俺の頭に激突。
俺の頭は揺らいだけれど、持ち直した。
痛む頭を抑えながら、転がるボールを追いかけた。

「何すんだよ、!こんにゃろー」
俺は拾い上げたボールをめがけて投げつける。
は笑いながらボールを受け止める。
まるでドッヂボール大会だ。
息が切れるまで、汗が雨のように額から地面まで流れ落ちるまで、ずっとふたりで遊んでいた。










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こういう関係にあこがれます。
小さい頃のように無邪気に遊べるというのに。
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