# 小 さ い 頃 は #





小さい頃は前ほどひねくれてなくて、素直なガキだったんだ。
まぁ、今も素直なんだけど。
好きという言葉は、まだ言えなくて、素直になったつもりでいたんだ。
正直な気持ちが言えなくて、素直と言えるだろうか。

小さい頃からずっと隣に住んでいるは、少し遠くの街の高校へ進学した。
そこには寮があるから、寮生活を送っている。
長期休暇にだけ家に戻っているから、会えないのは当たり前なんだ。
会えないと薄れる想いを持っている奴も多い。
それはその程度の想いだってこと。

会えなくて。

会いたくて。

部活に打ち込んでいる間は忘れられたとしても、携帯の受信メールを見ればすぐに会いたくなる。
毎日、マメにメールを送ってくる。
寮生活をしているに、体調を気遣ったりするのが普通なのだろう。
けれど、は俺の心配ばかりしている。





 徹ちゃーん大丈夫?
 部活ばっかりやってないで勉強もしてる?
 もうすぐテストじゃん、頑張ろうね(^0^)/





 ちゃんって言うな!
 テストねぇ…なんとかなるんじゃねぇの。
 お前も頑張れよ。調子乗ってたらスベるぞ。
 まぁなら大丈夫か。





 今猛勉強中だっての。
 早く春休みになってほしいし。
 家に帰ったらまた遊ぼうね。
 早く会いたいなぁ。





 誰に会いてぇんだよ?





 徹ちゃんに(*^_^*)





どういうリアクションをとればよいかわからなかった。
喜んだらいいのか、どういう意味で俺に会いたいのか。
ただ素直に、久しぶりに幼馴染に会いたいなと思っているのか。
幼馴染は一番タチが悪いと思う。
小さい頃から仲がよいから、わかりあえる。
言いたいことも言える。
けれど、言いたいことが言えない時もある。
幼馴染から恋人同士に変わりたいと思った時、正直に言えるだろうか。
片方の気持ちは恋心で、もう片方は兄弟のような想いを持っていて、双方の関係が成り立つだろうか。
きっと難しいと思う。






 なんで俺に会いたいんだよ?
 毎日メールしてるし休みになったら会えるだろ?





 えー休みとか1年に何回かしかないじゃん。
 それに休みでも部活あるんでしょ?
 なかなか会えないと寂しくて泣いちゃうよ(T_T)





 らしくねーのな。
 まぁ俺もに偶には会いたいな。
 じゃぁなテスト頑張れよ。





 うん頑張りまふ。またねーo(^0^)o





小さい頃、俺たちはとても仲がよかった。
は無邪気に「大きくなったら徹くんのお嫁さんになろうかな」なんて言ってたし。
俺も「大きくなったらちゃんをお嫁さんにもらうんだ」とか言ってたし。
あの頃、本気だったわけがない。
けれど、今になって、俺にはしかいないんじゃないかと強く思うんだ。
運命とかそういう言葉で片付けようと思えば片付けられるかもしれないな。

結局、の意味深な言葉の意味はわからなかった。
俺にとってよい意味で捉えてよいものか。

小さい頃は、無邪気にはしゃいでいたな。
小さい頃は、言葉に表と裏なんてなかったな。

大きくなったらどうして素直になれないのだろう。
他人を見ていても、自分を見ていても、そう思う。





真冬なのにとても暖かい日だった。
窓は締め切られ、冬だというのに熱気が篭った体育館。
汗を額に浮かべながら、俺たちは、放課後、部活に励んでいた。
流れる汗をタオルでぬぐう。
着ているTシャツも、汗で所々色が変わっている。

その時、すぐに着替えればよかったんだ。
着替えようかどうか迷っていたときに、監督から呼び出された。
俺は渋々職員室まで行き、長い話に付き合わされてた。
暖房が効いた部屋。Tシャツに染み込んだ汗は乾いてしまった。
少し頭が痛い。
うっかり、俺はただの頭痛だと思ってしまった。
今まで健康体だったのに、ただの頭痛が起きるわけがない。
部室に戻り急いで着替える。他の部員が、俺の顔色が悪いと言ってて、やっと気づいた。
頭が痛いのは風邪をひいたからだ。
バカなのは俺だなぁと思いながら、家に帰った。
帰れば、鍵のかかった扉。暗い部屋。
ベッドに倒れこんで眠れば、明日になるだけ。
明日は必ずやってくる。俺が眠っていても。





栄養分を摂らなかったからだろうか。
朝、目覚めたらのどが痛く、身体がだるかった。熱も少しあるらしい。
布団からでるのも億劫だ。
俺は、学校を休むことにした。
いつもは枕元に置いてあるはずの携帯が無い。
おそらくかばんの中に入ったままだろう。
かばんは、玄関に放置したままだ。
俺は重いまぶたを閉じて眠りについた。

昼前だろうか、目を覚ました俺は何か喉に通したくて、台所で冷蔵庫の中を漁っていた。
皮をむき食べやすい大きさに切られたリンゴを見つけて、それを食べる。
とりあえず鍋に冷やご飯と卵と水を入れ、おかゆを作る。
温めている途中、携帯の存在を思い出し、玄関からかばんを部屋へ戻してディスプレイを見る。
そこにはメールの受信を知らせる画像があった。
メールはクラスの奴からと、他の友達と、から。
からのメールを真っ先に開いた。





 勉強ばっかしてたら息が詰まるからメールしてまーす(^_^)
 徹は今何してるのかなぁ。
 疲れて寝てる?寝てたら返事はいらないや。
 今日もお疲れ様。次の大会楽しみにしてるからガンバ(^0^)/!!!





 おはようございますー。今日は創立記念日だから学校休みなんだよぉ。
 朝から家の掃除したりいろいろと。あと買い物に行こうかな。
 そっちのほうまで出るから家に今日だけ帰るつもり。
 やっぱり部活だよね?





が家に帰ってくる。
けれど俺は風邪ひきだ。
会って風邪を移すわけにはいかない。
できあがったおかゆを食べながら、俺はノロノロとメールの返事をする。
いつもは手馴れたメール打ちも、風邪をひいているせいか指の動きも遅い、思考回路も遅い。





 風邪ひいて今日は家にいる。
 うつるからから家には来んな。





 大丈夫?何か食べた?何も食べてないでしょ?
 今近くで買い物してる所だから後で家に行くからちゃんと寝てて。
 どうせ病院も行ってないし薬も飲んでないでしょ?





 うつるからやめとけって。大丈夫だから。





 もうメールいらないから。早く寝て。
 布団に入って身体温めて!!!!





携帯の向こうできっとは怒った顔で急いでいるのだろう。
風邪を引いていることを伝えなければ良かっただろうか。
けれど、伝えても伝えなくてもはここにやってくるはずだ。
そういう奴なんだ、小さい頃からちっとも変わっていない。

けれど、に会えるのが、少し嬉しい。
夏休み以来会っていないから、5ヶ月ぶりくらいだろうか。
携帯の向こうにいるではなくて、自分の足でここにきて声を聞かせてくれる、顔を見せてくれる
きっと第一声は「どうして風邪なんかひいたの?」だろうな。
の姿がまぶたの裏側に浮かんでは消える。

俺の意識は濁ったまま深く深く沈んでいった。





目を覚ますと、おかゆのいい香りがした。
ベッドに背を向け、人が腰掛けている。
俺がゴソゴソ動いたから、そいつは俺に顔を見せてくれた。
懐かしい顔、だったんだ。
は一生懸命おかゆを冷ましていた。
どうやら余所見をしている間に沸騰してしまったらしい。





「久しぶり。全然元気じゃないね」

「あぁ、風邪ひいちまったからなぁ」

「どうして風邪なんかひいたの?バスケ始めたからタバコとか止めたんでしょ。
 一応アスリートなんだから、気をつけなくちゃ。身体が命でしょ?」

「一応、は余計だ」

「わかったから。ちゃんと食べて寝たら治るわよ」





は俺の身体を起こして、スプーンで口までおかゆを運ぶ。
口を開くとその中へおかゆが流れ込んできて、いやでも食べてしまう。

は俺の額に手を当てて熱を測る。
平気で俺に触れてくるのは、小さい頃から変わらない。
俺のことを、ひとりの男として見ていないからだろうか。
触れてくれるのは嬉しいけれど、そうなら触れてくれないほうがマシだ。

それが不満で俺は変な顔をしていたらしい。
は、困った顔で俺に尋ねる。





「・・・おいしくなかった?」

「あ、いや、すっげーうまかった」

「ほんとに?」

「あぁ、うまかったって」

「よかったぁ。徹の口に合わないんじゃ意味ないもんね」






の、笑顔を見れた。
俺はそれで満足できた。
ほっとしたら、眠くなってきた。
に薬をのまされて、余計眠くなった。
俺は、もっとと話していたいと思いながら、ベッドに身体を倒して眠った。
とても、温かかった。





目が覚めた。
温かいのは、も一緒に眠っていたから。
床に座ったまま、身体はベッドの上に預けて。
の頭をなでてやる。

小さい頃は何も意識せずに触れられたんだ。
俺だけか?こんなに意識しているのは。

指の間をの髪がさらさらと流れる。
シャンプーの香りが微かに漂う。
頬に触れて、指の腹で肌の弾力を感じる。
そのまま俺の顔をの顔に近づけて、もう一度眠った。





まだぼやけた視界だけれど、目の前にしっかりとの顔があることはわかる。
どうして、こんなにアップで映るんだろう、疑問に思うけれど、自分で近づけておいて何を言ってるのだろう。
も目を覚ましたらしい。
俺の顔が目の前にあることに驚いて、顔を赤くしていた。

顔が近いついでに、の頬にキスした。
は俺のことを殴るのかと思ったけれど、予想に反して、は取り乱して俺との距離を置いた。
顔は真っ赤で、目はどこを見たいのかわからないくらいうろうろしている。





「あ、あわわわ、と、とと、とおる?」

「何だよ・・・」

「あ、え、うん」

「意味わかんねーだろ!」

「違うって、何!徹が何であんなことするのよ!」

「ったりまえだろ、好きだからに決まってんじゃん」

「好きってキスするのが?」

「違うって。が好きだからに決まってんだろ!」

「え?」





つい、勢いで言ってしまった。
後から口を押さえても、言ってしまった言葉は消えてなくならない。





「幼馴染だからとか、そういうんじゃなくて、普通に、好きなんだよ、のこと」

「いや、普通って何?」

「何っつったらいいかわかんねーんだよ!」

「徹らしいよね」

「これが、俺らしい・・・か?」

「うん、徹はそんな感じ、いいかげんでいいの。私も、徹のこと好きだよ。大好き」





多分、俺もも、顔はそれなりに赤かったと思う。
の最後の言葉と笑顔には、1発ノックダウンだ。
俺はベッドに倒れこむ。
心配そうに、は真上から覗き込む。





「あー、なんかすっげー、いいかも」

「何が?」

「わかんねぇ」

「何それ」





胸の中につかえていたモヤモヤが取り払われた。
風邪が治る頃にはは寮に戻るだろう。
春休みになったら、とりあえずデートだ。
それだけ。










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うわっ、最後のほうてきとーに流してるかも。
「なんか、いいかも」この言葉が好きなんです。
徹くんには幼馴染とか、昔から知る人が似合うと思う。
ヒゲとかね(笑)葵ちゃんもいいけど(オイ
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