感動するのも悪くはない。
# 映 画 に 行 き ま し た 。 #
久しぶりに部活が休みになったから、俺はをデートに誘ってみた。
これといって行く当てもなかったのだけれど、には見たい映画があるらしいので、映画館へ行くことにした。
映画なんて見に行くのはひさしぶりだな。
1年ぶりだろうか。前に行った時は、野郎どもばかりで行ったからつまらなかったな。
周りがカップルばかりで、俺達の身の置き場が無かった気がする。
映画といえばポップコーンと言っているだけれど、映画を見に来たのに買おうとしない、ねだろうとしない。
あくまで小さい頃の話らしい。鑑賞中に、ポップコーンを食べる音が気になるのだろう。
映画のチケットは高いなとか、最近の映画館の設備はよく整っているなとか、色々思うことはある。
時が経てばテレビで放映するかもしれない。
けれど、本当にこの大画面で見ることに価値があるものもあるのだ。
と一緒に携帯電話の電源を切る。
上映中にバイブレーションの音が聞こえるのも耳障りだから。
それくらい簡単なマナー、俺にだって守れる。
俺じゃなくても誰にでも。
実際、映画が始まると、不覚にも涙が止まらなくて携帯どころではなかった。
「あんなに泣いちゃうとは思わなかったよー。しかも徹まで泣いてるんだもん。かなりビックリ!」
「泣いたっていいだろ。感動したんだ」
「徹に感動とか似合わないなー」
「うるさいな」
は素で嫌がらせのような言葉を紡ぐから少し困る。
けれど、そういうところも含めて好きなんだ、きっと。
ニタニタ気味の悪い笑い顔では俺の手をひいていく。
俺はに引かれる形で歩いていたけれど、足の回転を早めてに追いついて並んで歩いた。
目指すはお気に入りのカフェ。
映画の後にのんびりご飯を食べながら映画のこととかを話すのも、映画を見に行く行為の続きにあるのだ。
たまに街を歩いていて、カップルが手を繋いで歩いているのを見かけて気分を害する時がある。
ならば、今の俺たちも誰かの気分を害しているかもしれない。
そう考えるけれど、好きで手を繋いでいるのだから放っておいてくれと思う。
例えば、恋人が重い病気を患っていていつか死んでしまうのがわかっていて、
まだ高校生なのに花嫁写真を撮ったり、婚姻届を出そうとしたり、そういうことが普通にできるだろうか。
俺にはきっとそんなことできない。何も出来なくてオロオロするか、バスケットに逃げるか、どちらかだろうな。
同じ高校生なのにすごいなと思った。映画の中の人間だけれど、尊敬に値する。
きっと、今、手を繋いでいる時間がすごく大切。
キスしたり抱き合ったりすることよりも、ただ一緒にいるだけの時間がとても大切で。
映画の中の彼らに比べたら、俺達はとても幸せで何ひとつ不自由していない。
大切な人が側にいて、笑ってくれるのだから。
彼の側で、彼女は笑ってくれない。笑った思い出しか残っていない。
珍しく物思いに耽っていたから、に気味悪がられた。
カフェでいつものサンドイッチとカフェオレを注文する。
そして、それを食べる前からメニューを見てデザートを考え始めている。
けれど、注文をする前にデザートを考えている俺がここにいて呆れて笑ってしまった。
似たもの同士、気が合うらしい。
「イチゴのパフェもおいしそうだし、こっちのチョコレートケーキもおいしそうだし・・・」
「デザートだろ?後で決めろよ」
「徹だってデザート見てんじゃん」
「悪いかよ」
「悪くないわ。だから私も今、デザートを決めるのッ」
こんなやりとりをできるのも今だけ。
そう、俺たちが恋人同士という関係を保っている間だけ。
別れるなんて考えたことは無いけれど、仮に別れてしまったとしたら今までどおり仲良くはできないんじゃないかと思う。
それは、愛が足りないからかな。友情とか、愛情への。
ブラックのコーヒーを飲むと、苦味に目が覚めた。
別に眠かったわけじゃない。
幻想から目が覚めた。
考えても仕方が無い。
未来は誰にもわからない。感動したって同じ真似はできない。15だから結婚なんてできやしない。
今、は隣に居る。ここにいる。今、この瞬間に離れてしまうわけじゃない。
不思議そうな顔で俺を見ている。
俺は少し笑って「どうした?」と尋ねた。
も少し笑って答える。
「徹がどっか遠くを見てるから、どしたのかなーって」
「がそこにいるからな」
「はぁっ?」
「なんでもねーよ。気にすんなッ」
素直に、感情に逆らわずに笑えた。
映画に行きました。
感動しました。
帰りに女の子と一緒にカフェでお話しました。
そうしたらわかったことがあったんです。
その子と一緒にいられて、とても幸せなんです。
だから、この幸せを映画の中に出てきた彼にも少し分けてあげたいなと思いました。
分けなくても、彼は幸せかもしれません。
大好きになれた人がいたんです。
その人がいたときはとても幸せだったんです。
カフェで一息ついた後、俺達は買い物を楽しんだ。
たまたま三千円以上お買い上げで1回抽選のガラガラ抽選会をやっていて、が大きなドラえもんのぬいぐるみを当てて喜んでいた。
俺は、それを抱えさせられて、と手を繋ぐことができなくて少し残念だなと思いながら歩いていた。
「あ」と声を漏らしたの視線の先を見ると、口をぽかんとあけたハルが立っていた。
は軽く頭を下げてあいさつする。
俺は手が離せないから「おう」と声を掛けた。
「なな、ななな、なにやってんだよ、と、徹」
「お前おかしいぞ。ちゃんとしゃべれよ」
「何してるか聞いたんだ!」
「映画に行きました。それから買い物しました。そしたらがドラえもん当てました。それだけ」
「デ、デート!?」
「悪いかよ」
「悪いもなにも、悪いに決まってんだろっ!・・・そんなカワイイ女の子連れてよぉ」
「私なんてかわいくないって〜」
そんなことを言いながら、ハルの後ろに女2人がいるもんだからおかしくなる。
もちろんそれが国府津のバスケ部の奴だと知っているし、そのうちの1人にハルが想いを寄せているのも知っている。
は笑ってハルの言葉を流して、俺の腕を引っ張っていく。
そのまま俺はドラえもんを抱えたまま、に引かれて歩いていく。
腕が熱い。
は前を向いてずんずん歩いていく。
名前を呼んでもは待ってくれない。
歩きつかれたのだろうか、が止まった時、いつも別れる公園についていた。
俺の家からもの家からも、丁度同じくらいの距離にある、小さい頃からよく遊んだ公園。
誰もいないのに、ブランコが少し揺れていた。誰かが遊んでいたのだろう。
は俺の腕からドラえもんをとり、抱きかかえたままブランコに腰掛ける。
俺も、隣のブランコに座った。軽く揺らすとブランコは動き出す。
「ねぇ、徹」と遠くを見ながら言うの横顔が綺麗に映る。
「ねぇ、徹」
「何だ?」
「私ってかわいいかなぁ?」
俺は思わず大きく吹き出してしまった。
悪気があって言うわけじゃない。素直にそう思ったからは俺に尋ねたんだ。
けれど、俺には笑い話にしか捉えることができない。
お腹を抱えて笑う俺を見て、は平手で頭をバシッと叩いた。
痛くて頭を手で覆うけれど、笑いが止まらない。
「なんでそんなに笑うの?何がおかしいの?ヒドイよー」
「あー、腹痛ぇ。だってが素の顔で言うからさー。サイコウだぜ」
「えー、なんなのー?」
「かわいいに決まってんだろ。そういうところが好きなんだよ」
「え、ほんと?嬉しいなぁ」
少し顔を赤らめながら笑うとすごくかわいらしいんだ。
そういうところが好き。素直に嬉しさを表現してくれる所が好き。
俺が笑うと、笑い返してくれる。その時の笑顔が好き。
俺の隣で笑ってくれるから好き。
だから、俺は幸せでいられるんだ。
今、幸せ。
だからきっと、大人になってもあの時、幸せだったなぁって思い出せるはず。
もっと大人になったときに思い出せるように、たくさん思い出を作ろう。
また映画でも見に行こう。他にもどこかへいこう。
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かなり苦戦して、それが文章に表れてるかと・・・。ダメだこりゃ。
徹くんは好きなんだけど、タイトルがまずかったね。
映画なんて毎年ポケモンとワンピースしか見てなくて、
とりあえずいちばん最近見た例の・・・を2人が見に行ったことにしておきました。