と俺と、他に何がある?





      # 君 と 僕 と     ? #





たまたま平塚をうろついていたら、に出くわした。
デートの約束をしていたわけでもない。
今日、平塚に行くことを話したわけでもない。
なのに、ばったり出くわした。
これも何かの縁ということで、俺達はすぐデートをすることにした。
といっても、2人でブラブラ歩きながらウインドーショッピングしたり、それくらい。
は俺に偶然会えたことでかなり上機嫌だ。
珍しく、から俺の手を握ってきた。
笑顔があふれていて、見ていて気持ちいい。

俺達、手を繋いで、どこへ行こうか。
俺とが一緒なら、どこでもいいんだけどな。
・・・はぁ、どっかいいとこ無いかな。

ピンクのアーケード、ショーウィンドウもピンクのクロスが敷かれ、女ばかりであふれかえっている店があった。
どうやらアクセサリー屋らしい。値段は少し安いけれど、商品の種類が豊富らしい。
はピンクが好きというわけではないけれど、ウインドーに置かれたアクセサリーを見て惹かれたらしい。
人ごみにはいりたくはなかったけれど、が俺の腕を引くからその店の中に入った。

見たことある女だなぁと思ったら、それは中学時代のクラスメイトだったり、同じ高校の奴だったり。
俺と同じようにげんなりした顔を男がいると思ったら、それは他校に彼女がいると言っていた部活仲間だったり。
は他の顔にお構いなしで、陳列されたアクセサリーを眺めたり、手に取ったり、自分の時間を楽しんでいるようだった。
何より、の笑顔が見れるのが俺にとって嬉しいことだから。

の後ろについて、俺もそのアクセサリーを眺める。
が触れもしないし見もしなかったネックレスが、俺には目に留まった。
星型のプレートが3枚、アクセントになっている線の細いネックレス。
銀色の輝きはシンプルだけど、清楚な中に気高さを漂わせていた。
ふと、顔をあげるとの姿は無くて、俺はしばらくそのネックレスとにらめっこをしていた。
そして、近くを通りかかった店員さんに声をかけた。





は気が済むまで店の中をぐるぐる回っていた。
俺は、とはぐれてしまってからずっと、少しスペースの空いた所、丁度ショーウィンドウの裏に当たる部分で立っていた。
そこから、の姿がよく見えるから。は、他の子よりは少し背が高いからな。
は、俺のことをすっかり忘れているのだろう。
周りを気にせずぐるぐる回っていた。
が背伸びして周りを見渡す頃に、俺は背伸びして大きく腕を振って俺の存在をアピールした。
は俺の姿を見つけると、俺と同じように腕を大きく振ってこちらに近づいてきた。





「ゴメン、途中で徹のこと忘れてたよ」

「彼氏のこと忘れるとかサイテーだよな」

「ゴメンってば。この通り」





は両手を顔の前で合わせている。
の訴えかけてくる目に負けて、俺は許した。まぁ、もともと最低だとは思っていないから。
俺は笑って、またと通りを歩き出した。

前に見えるのは、人ごみに埋め尽くされた真っ直ぐ伸びる通り。
すれ違う人は、皆、連れ立っている。
友達同士で店をまわる者、俺達のようにカップルでひと時を楽しんでいる者。
そうなんだ、今のひと時を少なくとも俺は楽しんでいる。
は、どうだろうか。
答えなんて訊かなくてもわかるさ。
こんなに明るい笑顔を見れるのだから。

はお洒落なケーキ屋を見つけて、すぐ俺の手を引いていった。
通りから少し外れたところにあるのに、の目は見逃さなかった。
赤を基調にした店。
外れにあるからお客さんが少ないのは仕方ない。
けれど、は雰囲気が気に入ったらしく、店の前にあるテラス席でお茶でもしようと提案した。
ケーキと紅茶を買って、腰掛けて食べるその味は、今まで食べた中でも断然美味しいものだった。
偶に現れる通行人、お店の店員さん、そんなものを眺めながら2人で過ごした時間。





「おいしいね。こんなにおいしいのにお客さん来ないなんてもったいないよね」

「そうだな、もったいないよな」

「よーし、じゃあ私達が常連さんになろ!はい、決定ー!」

「俺には拒否権無しかよ」

「当たり前じゃん。徹は私にべた惚れだから何でも言うこときいてくれるってあの人が言ってたよ」

「あの人?・・・・・・高柳か。あいつ何デタラメ言ってんだよ」

「えー、デタラメなの?ちょっと優越感に浸ってたのに残念」

「そんなんで浸るなよな!ってか、高柳といつ話したんだ?」

「うーん。この前、徹が先に帰っていいって言ったのに帰らなかった時。
 体育館の外で待ってたら、徹は遅くなるから先に帰ったら、って言われたの。
 そん時、ちょっとだけ徹のこと話してくれたよ。私が徹の彼女だって知ってたから、少しだけ、ね」

「あいつ、そんなんで人と話したりするかなぁ」





上の空でケーキをフォークでつついたら、いつのまにかショートケーキの苺が消えていた。
食べたことも忘れてしまったのかと思ったけれど、のフォークに刺さった苺を見て食べていないことに気づいた。
残念ながら、のケーキはモンブランだから苺は無い。
苺の代わりに栗が載っている。





「おまえ、何やってんだよ」

「え・・・苺が私に食べてーって訴えてきたから」

「そんなこと言うわけねぇだろ、俺のだっつの」





は苺を口に運んでしまった。
だから、俺も栗をフォークに突き刺して食べてしまう。
は俺の頬をつかんで引っ張って離さない。





「とーおーるー、栗、返せー」

「いひごふったほ(苺食ったろ)」

「ヤダー、モンブランから栗とってどうすんのよ」

「ほっぺた痛い・・・。お互い様だろ。苺返してくれるのかぁ」

「食べちゃったから無理に決まってんじゃん」

「こっちもそうだっての。これで我慢しとけ」





よくあるパターンだけれど、まだ実行してなかったことをやってみた。
は顔を真っ赤にしてたけれど、おとなしく引き下がって残っているモンブランに手をつける。
俺はその反応に満足して、笑いながらケーキに手をつけた。

苺が食べたかった。
は栗が食べたかった。
だから、お互い食べた後の唇でキスしただけ。

けれど、は俯いたまま黙々とケーキを食べていて、一言も話さない。
どうやら機嫌を損ねてしまったみたいだ。
ふと、俺はに渡さなくてはならないものがあることを思い出した。
さっきの店で買った、ネックレス。
簡易包装をほどいて、俺はネックレスをの前にぶら下げる。
軽く揺らすと、キラキラ光を放つ。
顔を上げたに笑って問いかける。





「これやるから機嫌直せよな」

「これ?・・・・・あ!」

「さっきの店にあったやつ。、見向きもしなかっただろ?」

「うん、今見ると、すっごく綺麗だね」

にやるよ。俺からプレゼントな」

「なんで?記念日とかじゃないのに」

「いらないなら返せ」

「やややや、頂きます。ありがたく頂戴します」

「別に、プレゼントなんていらないんだけどな」

「ん?」

と俺がいれば十分なんだよ」

「そだね。偶にネックレスとかあったりするんだよね」

「そう、偶にな、たーまーに!」










**************************************************
「君と僕と」と聞いた(読んだ)瞬間「他に何にもいらない」ってフレーズが浮かんだ。
というわけで、別に他のものはいらないよ、ってことを徹くんに言ってもらった。
ちゃんと言えてるのかな?伝わってるのかな?
今更だけど、アイルって難しい。キャラがつかめないもん。
赤いケーキ屋さんは、バイト行く途中にできたパン屋さんのイメージ。
inserted by FC2 system