[ まつげに降る夜 ]





元日から仕事の父は早々に眠ってしまい、陽気な母に誘われ除夜の鐘を突きに近所の寺に向かう。
年越しそばも食べた。あとは新年を迎えるだけ。
今年は良いことばかりだった。
素敵な人を好きになった。縁あってお付き合いすることになった。毎日が楽しくなった。
バラ色の人生ってこういうことなんだなって思った。

除夜の鐘を突き、新年を祝う人たちの波に逆らって寺の門へ向かう。
足元が暗くて階段があることに気づかなかった。
踏み外して、足を捻ってしまった。


「痛む? 寒いけど少し休んでから帰ろうか」
「うん、そうする。母さん、ごめんね」
「懐中電灯持って来ればよかったね」
「そうだね」


参拝客に甘酒をに振る舞っているようで、母をそれを取りに向かう。
私は階段に腰掛けて、冷える手をこすりあわせた。
吐く息が白い。
湯気のように星空へ舞い上がるが、はっと息を飲んだ。
目の前に、よく見知った男の人の顔が急に現れたからだ。


「原田くん!」
、何してんの」
「足、くじいた」
「どんくさいな。高柳におぶってもらえば?」
「え?」


原田くんの後ろで、高柳先輩が寒そうに手をコートのポケットに突っ込んでいる。
二人で除夜の鐘を突きに来たのだろうか。


「っつーか、俺、邪魔だな。先、帰るな」
「え、あ、原田くん……」
「お疲れ。また部活でな」
「おー、お疲れさん」


原田くんは手を振って寺の外へ出ていく。
二人きりになると何を話せばいいかわからなくて黙ってしまった。
挨拶と天気の話で乗り切れる空気ではない。


「あの、こんばんは」
「こんばんはっつーか、あけましておめでとう、だな」
「あ、もう日付変わってる? あけましておめでとうございます。今年も、よろしくお願いします」
「あぁ、よろしくな。それより、足痛むか? おぶって帰ろうか」
「少し痛いけど、大丈夫。母さんと一緒に来たから、二人で帰るよ」


甘酒を両手に持った母が戻って来た。
高柳先輩と付き合っていることは友達にしか話していない。
言わないわけにもいかなくて、困って何も言えずにいると、先輩が自己紹介しだして驚いた。


「はじめまして。さんとお付き合いしています、高柳です」
「え!? あんた彼氏いたの。教えてくれたっていいじゃない」
「だって、言う機会なかったし」
の母です。こんなに素敵なイケメンがうちの娘でいいのかしら。不束者ですがどうぞよろしくお願いします。
 今度うちにも遊びにきてちょうだい。お父さんがいないときにね」
「部活で忙しいから無理だよ。バスケ部だもん」
「まぁ、なら今度応援に行くわ。行くのよ、
「はいはい」


母も原田くんと同じように邪魔者は消えるわと言い残して去っていった。
受け取った甘酒は、片方を高柳先輩に渡す。
指先が触れる。
高柳先輩の指は温かい。私の指は冷え切っていて冷たい。
「ごめんなさい」そう謝ると、高柳先輩は首を振って私の手を強く握る。


「冷え切ってるな」
「あの、先輩の手が、冷えちゃいます」
「いいよ、俺の手は気にしなくて。甘酒飲んだら帰ろう」


高柳先輩は甘酒を飲んでいる間、私の手をずっと握っていてくれた。
甘酒で体の中から温める。片手は、高柳先輩が温めてくれている。
足をくじいたのはついていなかったけれど、こうして高柳先輩に会えたことは嬉しかった。
心の準備ができていなくてほとんど話はできなかったけれど、手を繋いで隣にいられるだけでとても幸せ。





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久しぶりすぎて学ちゃんがどんなキャラだったか忘れてしまった。

実家は除夜の鐘が聞こえる場所で、その音を聞きながら眠ったなぁ、とか。
2000年問題があった年は何かあったら怖いから日付が変わるまで起きてたとか、
いつぞやは父以外の家族で千と千尋の神隠しを映画館に見に行ったら空いてたとか、
最近は年越しライブで家にいないですけどね。そんな大晦日から元日の話。

お題はOTOGIUNIONさんからお借りしました。

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