[ ローファーと恋の墓場 ]





イライラして、ローファーを飛ばした。
ブランコを勢いよくこいでいたから、ローファーは遠くへ飛んでいく。
砂場にダイブして、うまく留まったようだ。

ため息をひとつ吐く。
公園で待っていろと言ったのはどこのどいつだ。
剣崎学園の高柳学だ。
いつまで待たせるつもりなのだろう。
私はいつまで待つつもりなのだろう。

愛なんて、ここにない。
幸せなんて、ここにない。
わかっている。わかっているんだ。
けれど、逃げ出せない、振り切れない。

好き、それに違いはない。
私は高柳学が好き。
彼も、間違いなく私のことが好き。
のことが好き。
好きあっているから、付き合っている。

けれど、けれど、けれど。
私たちは幸せになれない。
手を繋いでも、抱き合っても、幸せになれない。

ため息ひとつ、風にのせた。
夕日が沈みそう。
早く、沈んでしまえ。
私も、沈んでしまえ。





「遅くなって悪い」
「遅すぎ」
「おいおい、子どもの遊び場が、ローファーの墓場になってる」





学は、砂場に埋もれた私のローファーを拾い上げ、中に入った砂をざーっと砂場へ流した。
手で軽く砂を払うと、私の足元に投げる。
決して、持ってこないところが、私たちの相性の悪さを物語っていると思わない?
そんなことを学に言ってみれば、「そうだな」とあっさりした返事。

周りに散々言われた。
付き合ってもダメになる。好きあっていてもダメになることはある。
諦めろ。やめろ。
それを振り切った私たち。
呆れ顔の友人たち。

ブランコから降りて、ローファーを履いた。
しゃがんで、白くなったローファーを眺めた。
遠くで聞こえた声が、耳元で聞こえたように鮮明で、驚いた。
悪いことは、よく聞こえるようになっているんだ。

「もう、別れよう」

もう、って何だ?
頭に余計なものをつけるな。
怒ったら、学が笑った。
この顔を見れるのは、私の特権だった。
学は、普段、感情をあまり出さない。
この表情を出させるのは、私だけだった。

しばらく沈黙が続いた。
散歩中の犬が吠えた。
中学生くらいの女の子が、チワワを連れて公園の周りを歩いていた。

「さよーならっ!」
私は立ち上がって叫んだ。
学は何も言わずに小さく頷いて去っていった。

好き。
好き。
ごめん、好き。
相性悪くても、好きなんだよ。

好きな人と一緒にいられたら幸せだと思っていた。
けれど、この人と一緒にいても、全然幸せになれなかった。
片思いしていた頃のほうが、ただのクラスメイトのほうが、楽しかった。
そういうこともあるんだな、って思った。

悔しかった。
両思いなのに、幸せになれなくて。
歯を食いしばったけれど、涙が止まらない。
砂で白くなったローファーを、涙が濡らして黒に戻した。









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暗いなー。ごめんね、学ちゃん。 inserted by FC2 system