[ ミ ラ ク ル コ コ ア ]





真冬の夜道。
自動販売機のホットドリンクが目に付く。
家に帰ってからミルクを温めればよいのだけれど、そこに至るまでが寒い!
私はホットココアを買った。
ホットティーを飲んで眠れなくなったら嫌だから。
スチール缶のプルタブを引く。
けれど、固くてなかなか引けない。
立ち止まって、もう一度プルタブを引けば、あっさり口が開いた。
それと同時に、背後の自動販売機でガチャンと音がする。
誰かが飲み物を買った音。
振り返ると、学がいた。
こんな夜遅くに学と遭うなんて珍しい。





「珍しいね、こんな時間に外にいるなんて」
こそ、こんな時間に何してんだ?」
「友達と遊んでたの。って昨日会った時に言ったじゃん」
「あぁ、そういえばそうだったな。忘れてた」
「彼女の予定くらい把握してよ」
「じゃあも彼氏の予定くらい把握しろよな。今日は練習試合って言ったろ」





お互い様だった。
前日にデートして翌日の予定を聞いていたのに、忘れている。
二人で夜道を歩く。
お互い飲み物を持っているから、手は繋げない、腕も組めない。
意外にも、学の手にある飲み物はホットココア。
おそろいの飲み物を飲みながら、家までの道を歩く。

一人の夜道は不安だ。
けれど、今日は学が隣にいるからほっとする。
私は手が冷たくなるから、両手でココアの缶を持っていた。
けれど、学は片手で飲んでいる。
片手で缶を持てば、手は繋げるんだよ。
私は左手に缶を持ち替え、学の左手に自分の右手を滑り込ませた。
手が触れて、学がこちらを見るから微笑んだ。
そうしたら、ぎゅっと手を握り返してくれた。

自転車で横を通り過ぎた人が、突然止まってこちらを振り返る。
見慣れたかっこうだなと思えば、妹だった。
「姉ちゃん、彼氏とラブラブじゃん。いいなー」とむっつり顔で言われた。
自転車のカゴにはスーパーの袋が入っている。
母親におつかいでも頼まれたかな。
あの子、彼氏いないんだっけ。





の妹、徹と付き合ってたらしい」
「え?らしいって?しかも過去形?」
「別れたって聞いた。徹から」
「うそ!知らなかった・・・」





一人は気楽でいい。
けれど、誰かと一緒にいるのはもっといい。
『楽しいことは二人分、悲しいことは半分』そんな名言があったっけ。
今夜は冷えるけど、学と一緒だしホットココアもあるから寒さは半分くらいに感じる。
・・・と、うまくいけばいいけれど、やっぱり寒いものは寒い。

飲み干したココアの缶をゴミ箱に入れる。
寒いから、空いた両手を使って学に飛びついた。
学は驚いていたけれど、私の体を抱きしめてくれる。
ほっとする。
誰かと一緒にいられる幸せをかみしめている。
路上とはいえ、誰も周りにはいない。
だから、遠慮なく、学に抱きついた。
普段の私からは想像もできない姿だ。

寒さで頭がおかしくなったわけではなくて、きっとココアが私の心を動かしたのだと思う。
数分間抱き合った後、私たちは仲良く腕を組んで帰宅した。









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前にも学ちゃんでホットドリンクの話を書いたのですが、
またかよという突っ込みを受けないように・・・逃げれたかどうか不明。
真冬の帰り道は、ホットココアをよく買います。
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