[ 早弁ガールとお菓子ボーイ ]





好きな人の前では、いつも空回りしてしまう。
みんな、そんなもんだよ。
え、そうじゃないの?
・・・私だけなのかな。

そんなことを思いながら、昼休みでもないのに弁当箱を開いて卵焼きを食べている私。
今日の卵焼きは、ごま塩が入っている。しょっぱいけれど、それがいいんだ。
窓際の前から二番目の席。
周りの席の人たちは、次の時間が生物の授業だから生物実験室へ行ってしまった。
私は物理の授業だから、この教室で受ける。
席も、たまたま今の自分の席だから動かなくていいんだ。

「女が早弁かよ」
そんな呟き声が聞こえて振り返ると、高柳くんが呆れた顔で立っていた。
そのまま、私の斜め後ろの席に座る。
しまった、次は物理の授業なんだよ!
高柳くんは隣のクラス。
けれど、物理の授業は二つのクラス合同の授業だから、私のクラスにやってきて授業を受ける。
しかも、席は私の斜め後ろ。
迂闊だった、好きな人に早弁している姿を見られてしまった。





「い、いいじゃんいいじゃん、べ、別にいいじゃんかよ」

「なんか、さ、、動揺してる?」

「ど、動揺なんかしてませんよ。だ、だってお腹空いてたら授業に集中できないでしょ?」

「それはだけだろ」





あぁっ、もうっ、どうしてこんなに動揺していることを伝えてしまうのだろう。
私が伝えたいのは、あなたがスキってことなのに。
そう、好きなの。高柳くんが好き。でも、いつもあなたの前では空回りしてしまうの。
そんな私のことを、どう思っているのだろう。
何とも思わない、かな。
平凡な女子高生だもの、私は。

卵焼きをもう一つ、口へ運んだ。
机の上でカサっと音がして、私は下を向いた。
きのこのやまの袋が、私の物理の教科書の上に置かれている。
隣には、高柳くんが立っていた。
私に、きのこのやまをくれるのだろうか?





「弁当なくなるだろ?これでも食べとけよ」

「きのこのやま!私にくれるの?」

「もらえるもんはもらっとけ。昼休みにおかずなくて困るのはだろ?」

「ありがとー!!!」





普通は立場が逆だな、そう思った。
高柳くんが早弁しているのを見て、私がお菓子を恵んであげるのだ。
そして、お菓子をくれた女子に惹かれる。
だめだこりゃ。
私はお菓子をくれた高柳くんにますます惹かれる。
それでおしまい。

私は、きのこのやまを食べようとして、やめた。
「お弁当の後のデザートにとっておくよ。卵焼き、食べちゃったしね」
私がそう言えば、高柳くんは微笑んでくれた。
胸がキュンとする。
どうしようもない想いを抱えたまま、私は胸の前で手をぎゅっと握り、机に突っ伏した。
「早弁の次は昼寝か?」と呆れたような声が聞こえたけれど、気にしない。
好きな人に構ってもらえて、私は幸せだ。
机に突っ伏しているから、誰にも顔は見られない。
だから、ずっとニヤニヤしていた。

「授業、始まるぞ」と斜め後ろから声がした。
高柳くんが、私を起こしてくれたのかな?
顔をあげると同時に、授業開始を知らせるチャイムが鳴った。





昼休み、教室で机をくっつけて友達とお弁当を食べる。
いつも通り、私のお弁当はおかずが少し減った状態。
けれど、今日はきのこのやまというデザートがある。
それを不思議そうに眺める友達。
「あげないよ」と言えば、「もらうわけないじゃん、愛のカタマリを」と言うのだ。
何それ、愛のカタマリって???





「そーれ、高柳くんからもらったんでしょ?物理の授業始まる前に、二人でイチャついてたし」

「イチャついてないっつーの!」

「ニブちんのは気づいてないと思うから言うけどさ。
 物理の授業中、高柳くんって黒板とノート以外にはしか見てないんだよ」

「それってどういうこと?」





友達はため息をついていた。
私は何か、気に障ることを言っただろうか。
「自分で考えなっ」と吐き捨てるように言われた。









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天然彼女。
たけのこの里より、きのこの山が好きです。
しかし、母も弟もたけのこ派。
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