[ ポッキーと甘い放課後 ]





「うー、さむっ」思わず呟いてしまうほど冷え込んだ。
いや、そこまで冷え込んではいない。
ずっと暖かかったから、平年並みの気温になっただけでも冷え込んだように感じる。
ブレザーのポケットに手をつっこんでみた。
空を見上げれば、青い空に白い雲が浮かんでいる。
マシュマロみたい。
お腹が空いたな。
かばんの中を覗いてみたけれど、女子高生のかばんにお菓子は入っていなかった。

がっかりしていると、「なーに落ち込んでんだ?」と声を掛けられた。
振り返ると、高柳先輩が何かを頬張ってこちらを見ていた。
手にはポッキー、しかも季節限定のゴージャスなティラミス味。
貧乏人の私には手が出せない代物、というわけじゃないけれど、普通のポッキーより高いから私は買わない。
じーっと見つめていれば、高柳先輩は笑ってポッキーを私に差し出してくれた。





「まるでエサをねだる子犬みたいだな、は」

「せんぱーい、ありがと」

「語尾にハートマークついてるみたいで気持ち悪いからやめろ!」

「えへへ」





ポッキーをもらって空腹を紛らわせることができるのも嬉しいけれど、何より嬉しいことは高柳先輩に会えたこと。
部活をやっている先輩と下校時に会えるなんてレア。
にやけて顔がゆるゆるだ。
甘いティラミス味のポッキーが口の中で溶けていく。

秋の放課後。
甘いお菓子。
大好きな先輩と歩く帰り道。
片想いでも幸せなヒトトキ。
先輩が隣にいるだけで、心がピンク色になってポカポカしてくる。

「あー、きもちいい」と呟けば、高柳先輩がきょとんとしていた。
当たり前だ。
心地よい気温でもないし、いい風が吹いたわけでもないのに「きもちいい」と言っている女が隣にいるのだ。
この子は頭がおかしいとでも思っているのだろう。
それでいいよ。
私は頭がおかしいよ。
こんなに好きな人が隣にいるのに、「好き」というたった二文字が言えないもの。





「なんか・・・今日のは変だな」

「そうですか?いつものことでしょ」

「まぁ、そうか」

「ちょっと、先輩!そこは否定するとこでしょ!!!」





高柳先輩は笑っていた。
部活中は全く笑わないクールガイなのに。
私も、先輩が笑うところをほとんど見たことがない。
きっと、ポッキーティラミス味に酔っているんだ。
そうとしか考えられらない。

とりとめのないことを話しながら二人並んで歩く。
いつかは分かれ道にたどり着く。
それまで幸せでいられたら、その後もきっと一人で幸せな気分を保てるから、

淋しいなんて思わないように。

「はい、じゃあこれはにあげるよ」そう言って、先輩は私にポッキーの空き箱を手渡す。
私はゴミ箱じゃなーい!!!と叫びそうになったけれど、仲良しじゃなかったらこんなことはできないだろうと思ってやめた。
先輩は、少なくとも私に嫌悪感は抱いていない。

先輩と別れた後、ポッキーの空き箱を見ながら幸せを感じている私は、ただのバカなのだろうか。









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大好きな先輩からゴミを受け取ったとしてもときめく女心。笑
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