[ OPEN THE DOOR ]





多分、高柳くんは覚えていないと思うんだ。
それでも、私は高柳くんがしてくれたほんの些細なことを絶対忘れない。
私が、高柳くんと出会った瞬間。
恋に落ちた瞬間。

また大雨だ。
傘はある。
傘を差して走る。
時間がない。バイトの時間に間に合わない。
走って、バイト先のコンビニの裏口で滑って転んだ。
制服は濡れた。
手で軽く払って、扉を開いた。
コンビニの制服に着替えてカウンターに立つ。

雨の日は傘がよく売れる。
温かい商品もよく売れる。
アイスクリームは売れない。
冷たいジュースも売れない。

モップで入り口を綺麗にしたり、窓を拭いたり、接客したり、仕事をしていれば時間は過ぎる。
部活帰りの学生達も立ち寄るコンビニ。
もちろん、私の高校の学生も、私の友達も。

バケツをひっくり返したかのような豪雨。
私は少しだけ、トイレに行くためにカウンターから離れた。
何気なくカウンターに戻ると、先輩が高柳くんの接客をしていた。
もう部活、終わったんだ・・・。
「ありがとうございました」と決まり文句を言えば、私に気づいて高柳くんはこちらを向く。
ドキンとする。心臓が跳ねる。
少し微笑んでみた。うまく笑えたかどうかはわからないけれど。
「お疲れ!」と高柳くんはねぎらいの言葉をかけてくれた。
嬉しくて、心臓が口からとびだしそうだ。

私は急いでカウンターから飛び出し、扉を開いた。
私の店の扉は、手動ドア。
荷物がいっぱいのお客様や、お年寄り、妊婦の方のお見送りをすることは私たちの仕事。
それに気づいたのは、高柳くんのおかげ。
まだお互い名前も知らない状態だったとき、荷物を抱えて扉を開くことができずに立ち往生していた私に手を差し伸べてくれたのは高柳くん。
扉を開いてくれた上に、私の荷物を少し持ってくれた。
職員室の先生のもとへ届けたときに、彼の名前を知ったんだ。
この優しさは、みんなに還元したい。
だから、私は率先して扉を開いてお見送りをするのだ。
もちろん、忙しいときにはできないのだけれども。





っていつもこうやって扉を開いてくれるよな。ありがとう」

「いえいえ、だってサービスすることが仕事だもん」

「普通できることじゃないよ。気遣いができるっていいよな」

「高柳くんは覚えていないかもしれないけど、入学したての頃に高柳くんが扉を開いてくれて助かったことがあったから。
 あれがなかったら、今の自分はないと思うよ」





恋をした。
価値観が変わった。
今の私がいるのは、高柳くんのおかげ。

空を見上げた。
雲がかかって薄暗い。
ほんの少しだけ光が射した。
雨があがった。
私と高柳くんは顔を合わせた。





が頑張ってるから、雨もやんだな。ラッキー」

「そんなことないよ。きっと高柳くんが部活頑張ってるから、帰り道の雨を止ませたんだよ」

「このままが帰るまで止んでたらいいな」

「うん!」





なんとなく、次に扉を開いたときに、何かが起きるような気がした。









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中途半端ですが、学ちゃんは優しい人だと思って。
まぁ、学ちゃんは、ヒロインちゃんが
ちょっと好みのタイプだったから荷物持ってあげたってのはナイショで。笑

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