[ letter bee honey bee ]





少しでいいから。
私のことを見てほしいな。

もうすぐレギュラー決めの大事な紅白戦が行われる。
だから、学が私のことを見てくれないのは納得できるんだ。
私よりバスケットのほうが大切なのは、百も承知。
ただのわがままなのは、百も承知。
けれど、わがままをきいてほしかった。

体育館の側を黙って通り過ぎた。
バスケットボールの跳ねる音、部員達の大きな声、キュッキュとシューズと床がこすれあう音。
全部クリアに聴こえるのに、どうして私の視界はぼんやりしているのだろう。
息を吸い込んで「わがままーーー!!!」と大声で叫んだ。
視界が鮮明になる。
おかしくて笑っていたら、「誰が?」と低い声で尋ねられた。
学が呆れた顔で私を見ていた。
他に、誰もいない。





「誰がわがままだって?」

「え、違う違う。わがままなのは私だよ。うん、私はわがままガール」

「キャンペーンガールじゃあるまいし・・・。何がわがままなんだ?
 その前に、がこんなところで大声出してて、恥ずかしいことこの上なし」

「ご、ごめんなさいっ」





久しぶりに会って、話をして、姿を確認した。
それだけで、少し気持ちが楽になる。
コミュニケーションって大切だ。
走って近寄り、学に抱きついた。
神様、今は少しだけ、学の時間を私にください。
淋しいときに学と会えないのは生き地獄だ。

誰かがいなくなって、ぽっかり心に穴が空いた感覚は、人にしか埋められない。
埋めたように思っても、実は埋まっていなかったりするんだ。
りんごを食べたって、りんご大の穴が埋まるわけじゃないんだよ。





「あっちゃん、元気にしてるかな?」

「向こうでもビシバシ誰かを鍛えてるだろうよ。みたいにな」

「どこかにいるってわかっていても、ずーっと一緒にいたから会えないと辛いね」

「手紙でも書けば?メールよりも電話よりも、温かいからな」

「そうだね」





人と別れることに慣れていないからこうなるんだ。
強くならなくちゃ。
少しずつ、大きくならなくちゃ。

ひらめいて、学から離れた。
「紅白戦、頑張ってね!!」笑顔で言えば、学の頷く姿が見れた。
会えなくても、メールできなくても、電話できなくても、手紙を届ければいい。
学に手紙を書こう。
想いは、手紙で伝えるのがいちばんだ。
神様、学の時間を奪ってごめんなさい。
今度は手紙で伝えるから。私の気持ちを。









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手紙が好きです。男の子が好きかどうかわかんないけどね。
あっちゃんは、友達の元カノのニックネーム。
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