[ N E V E R ]





時間だけが過ぎて、俺には何もできなかったんだ。
あのときこうしていればよかった、なんて思うこともなかった。
後悔なんてないはずだったんだ。
彼女の困った顔を見るまでは。

「好き」という思いを抱えたまま、ひたすらバスケットボールを追いかけていた。
の目に、俺が留まることなんてないという思い込み。
きっと彼女の目に映るのは、俺とは違う人。
叶わぬ恋とわかっていて、何ができるのだろうか。
わかっているからこそ、できることもあるのに、俺は何にもしなかった。
アクションを起こさなければ、リアクションを目にすることはできないのに。

風の噂で知ったんだ。
に彼氏ができたということは。
きっと想い人と結ばれたんだな、そう思ったけれど、それは間違いだったらしい。
だからといって、時間を巻き戻すことはできない。
ただ事実を受け入れるだけ。

学期末の大掃除。
バケツに水を汲んで運ぶ
その姿を見かけた俺は、「持つよ」と言って、バケツを奪った。
「ありがとう」は困った顔で言うのだ。
彼氏がいるのに、それ以外の男と会話することが裏切りとでも思うのだろうか。
が、それほどまでに狭い心を持っているとは思えない。
じゃあ、どうして?
どうして、俺に困った顔を見せる?





「あ、なんか、俺がいるのは迷惑?」

「ううん、そうじゃないの」

「だったら、どうして?」

「緊張しちゃって・・・」





腑に落ちない。
俺といて緊張する理由がわからない。
切なげな表情のを見て、俺の思考回路はショートする。
何もわからない。
苦笑するは、焦っているようだった。
何が迫っているのだろう。

「ごめんね、ありがとう」そう言って、は教室までの最後の数メートル、バケツを持って歩くのだ。
何に謝っているのだろう。
わからないまま教室に入る。
電球に、電流が流れ込んだ。

あぁ、そうか。
俺のこと、好きだったんだ。
どうして、今になって気づいたのだろう。
体育館で見つめていたものは、俺以外の人ではなくて俺だったんだ。
バスケットボールばかり追いかけていた俺は、それ以外のものがうまく見えていなかったんだ。
今も、うまく見えていない。









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ちょい短い話ですが。
学ちゃんは意外と鈍感な気がする、色恋沙汰に関しては。
徹くんは敏感そうだなぁ。 inserted by FC2 system