[ ケ チ ャ ッ プ か け ま し た ]





ちっとも気づかないんだ、この人は。
頑張っているところを見せたいとか、綺麗に見せたい、かわいく見せたい。
そう思って努力しているのに、気づいてほしい相手に気づいてもらえない女の悲しい運命。
ため息がもれる。

高校を卒業して、大学生になった私と高柳。
私の彼への想いは変わらない。
彼の想いはいづこへ?
時々電車の中で会う彼は、相変わらず冷静面していた。
私は、相変わらず、通じない想いを抱えて無駄な努力をしているようだ。
綺麗にお化粧しても、かわいい服を着ても、高柳は何も言わないし、表情ひとつ変えないのだ。
こんなにアピールしているのに気づかないの?

休日になればアルバイトに勤しむ。
今日は早番だから昼過ぎに仕事は終わり。
友達と遅めのランチを楽しんで、軽くショッピング。
ジーンズのポケットにつっこんでいた携帯電話のバイブレーションに気づき、私は携帯を手に取る。
珍しく電話の通知。
友達の迎えのカレがやってきたから、別れて電話に出る。
出てから気づく、誰からの電話かチェックするのを忘れたということに。
聞こえるのは、雑踏の音。





「もしもし?」

「あぁ、?今、どこ?さっきオムライス食べてただろ?」

「は?誰?」





私のうっかりのせいで会話が成り立たない。
けれど、この声はもしかして、「高柳?」
非常に気まずい。
相手の返事が聞こえるまでの時間が長く感じる。
たった1秒が、1分以上の沈黙に感じた。





「そう、高柳です。ちゃんと相手見てから取れよ」

「ごめんなさい」

「変な電話だったらどうすんだよ」





反省する点が多い。
のそういうところは全然変わらないよな、昔と比べて」そんなふうに言われた。
変わってない。外を磨いたって、中は全然変わらないんだ。
当たり前のことに今気づいた。
私のアピールは、私がアピールと思っていただけで、アピールなんてものじゃないんだ。
ただ、外を塗り固めただけ。

どうやら高柳は、私と友達がランチをしていたのを見ていたようだ。
「今から会える?」と尋ねられて、「会えない」なんて言うわけがない。
返事をして顔を上げると、遠くに電話をしている男の人が見えた。
私を見て微笑んでいる。
見えるところにいるのに電話するのも、相変わらずだなと思いながら私は電話を切った。

「よお!」と声をかけてくる高柳は、なんだか大人びて見えた。
つい最近、電車中で会ったのに。
ドキドキする。
緊張している。何を期待している?
「おーっす!」と返事をすれば、高柳は安心したような表情を見せた。





「なんか、安心した」

「へ?なんで。何を心配してたの?」

「見た目が変わったから、中まで変わったのかと思った」

「んなわけないじゃん!」





つっこみを入れて、冷静になってから気づいた。
何といった?今、何を言った?
見た目が変わったと言った。私の見た目。
気づいている?
見た目の変化に気づいている、この人は。
そして、中は全く変わっていないことにも気づいてる。
さすがの洞察力。頭があがりません。

歩きながら話す。
大学のこと、バイトのこと、サークルのこと、友達のこと。
流れにのったら、恋人の話になるのは当然のこと。





「で、は彼氏はいんの?」

「ううん、いないよ。いるわけないじゃーん、こんなあたしに」

「へぇ、きれいになったから、いるのかと思った」





好きな人から「きれいになった」なんて言われて、有頂天にならない人なんているのだろうか。
舞い上がって大空を羽ばたいていけそうだ。
少しだけ、認めてくれたのかと思った。
高柳が、あたしのことを。









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中途半端バンザイ!!!
「きれいになった」って言われて嬉しくない人はいないと思うよ。
私だって、嬉しかった。
言ってくれたのは女友達ですけどねー。

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