[ 僕 は キ ャ ッ チ ャ ー ]





「高柳先輩っ」
振り返れば制服姿の女の子。にこっと笑う。
そして、ちょこちょこ歩いて俺の隣に並ぶ。





「おはようございますー」

「おはよう。珍しいな、こんな時間にいるなんて」

「早起きしたんですよ」





高校を卒業した俺にとって、制服姿というのはなんだか新鮮に感じる。
のオレンジ色のマフラーは、朝の目覚めにちょうどよい。
わりと近所に住んでいるのに、めったに会わない。
半年ぶりに会ったと思う。
駅へ向かうのは、彼女も同じ。

いろいろ尋ねたいことはあるけれど、何から尋ねればいいか迷ってしまう。
ひとつひとつ尋ねればいいだけなのに、そんなことすらわからない。
緊張して、強張る。





「「あのっ」」





ふたりの声が重なる。
顔を合わせる。目と目が合うと、ドキリとする。
先に言ってと譲り合うふたり。
けれど「先輩からどうぞ」と言われれば、断りきれない。
「じゃあ」と遠慮なく尋ねることにした。
たいしたことではないけれど。





「あー、えっと、受験生だよな。これからが本番?」

「あ、はい。センター試験終わって、2次試験のために猛勉強してます」

「国公立かー。頑張るんだな」

「はい!・・・高柳先輩と同じ大学行きます、なーんて言った方がよかったですか?」





はバカじゃない。頭の回転は早い。
だから、何を意図しているのかつかめない。
俺が、のことを好きだと知っているからいたずらしてみたのか。
単に同じ大学に行けば嬉しいと思うからなのか。
ニコニコ笑ったままのは、俺の返事を待っているようだ。
の瞬きすら、スローモーションに映る。
時が止まりそうで止まらない。
頭の中の歯車はフル回転している。
それなのに、全部空回り。
水車に水は流れない。

クスっとは小さく笑った。
「高柳先輩は、やっぱり高柳先輩ですね」と意味不明なことを言う。
俺の前を歩く彼女の背中は小さいけれど、とても大きく見えた。
たった半年で、彼女は成長している、精神的に。





「あたしは、そーんな高柳先輩が、大好きですよ」





そんな叫び声が聞こえた。
両手を顔の横で振るは、駅の改札をくぐって俺の前から姿を消した。
俺の返事を聞く前に、自分の意見を述べてきた。
彼女に不安がないわけじゃない。
不安を抱きつつ、自分の意見を直球、ストレートで投げてきた。
俺のミットで受け止められるか?
パスボールにせず、返球できるか?
先輩として、ひとりの男として、どうなんだろう。
俺は、どうするのだろう。
目の前に迫ったボールをどう処理する?





前に出した左手のキャッチーミットは、ボールをつかめるだろうか。









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LIFE CARDのCM好きですよ。
どうする、俺?ってね。

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