# 新 し い #





新学期、新年度の始まり。
2年生の頃の教室に始めは集合してクラス分けの発表を待つ。
先生が一人一人の新クラスと新出席番号を読み上げていき、最終的にその表を黒板に磁石で貼り付ける。
私のクラスは3組。同じクラスの友達もとりあえず1人は3組だったので一緒に移動した。
周りを見渡すとすでに2年は同じ敷地内で生活していることもあるから、見慣れた顔ばかり。
2年の時は他のクラスだった友達も同じクラスで、出席番号の関係で席が前後関係だった。
ガタンと隣に誰かが座る音がしたので振り向くと、そこには学がいて、互いに驚いてしまった。



「が、学。同じクラス?」

「らしいな、3組だろ?」

「うん。ビックリしたぁ」



私と学が付き合っていることは周知の事実なので、隠すことはない。
そんなにベタベタ付き合っているわけではないから、授業中、休み時間にイチャイチャして誰かの気分を害するわけでもない。
始業式の為に体育館へ移動する。私は友達と連れ立って体育館シューズを手に提げ話しながら階段を下りる。
学も同じように友達と一緒に行動する。
付き合っているからいつも一緒というわけではないから。

舞台の下で教頭先生が新任の先生を紹介する。
どこかで見たことのある顔だなと思ったら、学の試合を見に行った時にいた他校のバレー部の顧問の先生だったり。
名前を聞いたことがあるなと思ったら、1年の時の担任の息子さんだったり。
新しい顔に会うという事は、悪いことじゃない。
スペースが空いて広い体育館。
明日には新入生が入ってくる。私達は最高学年。受験生。卒業して、皆、別れていく。

担任の先生は去年と同じ先生。
何も変わらないと言えば変わらないけれど、慣れた生活から離れるのも寂しいものだ。
新しいクラスで新しい生活が始まる。
私はそれに胸をときめかせていた。
新しいことは悪いことじゃない。

明日の入学式に備えて部活で新入生勧誘のビラを用意する。
A3の紙を4分の1に切っていく。
私は書道部に所属していて、普段はまるっこい字を書いているけれど、やる時には流れるような字を書くんですよと、このビラを書いた。
私は副部長だけれど、今、部長は利き手の指を突き指していて書けないから、私が代わりに書いたのだ。
明日になれば、このビラを校門前で配る。
この字が新入生に見られるというのは、少し恥ずかしい。
けれど、自分の字だから自信を持ちたいとは思う。

翌朝、入学式の前に簡単なホームルームが1時間あり、その後、式が始まる。
その間は書道教室で皆と団欒。式の後のホームルームが終わる頃に皆、正門前の丸池の周りに集まる。
ジャージ姿の運動部員がボールとビラを持って待機。
吹奏楽部は椅子と楽器を持って隅で演奏の準備。
チアリーダーはその横で、演奏にあわせて踊るらしい。今日、初披露の長袖のユニフォームの色合いがとてもかわいらしい。
他の文化部も私達と同じようにビラを持って待機。
バスケ部もいて、もちろんその中に学もいたから、私は近寄っておしゃべりする。



「今年はどうかなぁ。たくさん来ると思う?」

「徹の中学の後輩がたくさんいるらしいから、結構来ると思う」

「徹くんの後輩かぁ。それに、剣崎、最近強いから来るかもね」

「根性無いのが大半だろうよ」

「ヒドイね、学は」



そうこうしているうちに、新入生のホームルームが終わったらしい。
初々しい制服姿の子たちが校舎から出てきた。
大半は吹奏楽部とチアリーダーを見に行くのはわかっている。
見に行く直前に声を掛けてビラを渡す。
中学時代の後輩を発見し、私は大きく手を振った。彼女も気づいてくれたようだ。
けれど、彼女は私の隣の学を見て驚いている。




先輩の彼氏ですか?」

「え、学が?一応、ね 」

「一応って付けんなよ」

「アオコが長髪のカッコいい人がバスケ部にいるからマネージャーになるって言ってたけど、彼女いるじゃーんって話っすね。
 しかも、同じ年、ですよね?だったら今年1年しか一緒にいられないじゃん」

「モテモテね、学は」



あまり学はそういうのを意識しないらしく、首をかしげていた。
新入生が入れば恋愛の出会いも起きるわけであって、学が後輩に目移りしたらいやだなぁと思った。
話さなくても私の気持ちがわかったのだろうか、学がボソっと言った。



「俺にはこいつがいるからな、他の女には興味無いって言っとけ」

「はーい、わかりました、先輩」



これは赤面ものだ。
嬉しくて真っ赤になったりする言葉ではないけれど、学が私を側に置いているというのがわかった。
それが嫌いじゃないってこと、私以外を隣に置くことに興味は無いってこと。
後輩はスタスタとアオコという後輩を探しにどこかへ歩いていった。
そろそろ離れようか、ということで、私達は別れてそれぞれの仕事に専念する。
徹くんが学と一緒にイケメンツートップということでセットで勧誘活動をしていた。
主にひっかかるのはマネージャーみたいで、学は不満そうだ。
バスケ部のキャプテンが女好きだから大変だ。

入学式ということもあり実質昼からの時間は部活に充てられる。
ということは、練習量も多くなるから日が暮れる前に部活が終わる。
バスケ部は5時に終わるらしく、私は書道部が終わった後も居残りで半紙に墨で字を連ねていく。
なかなか思うような字が書けなくて、私は休憩して書いてを繰り返していた。
ガラガラと教室の扉が開き、入ってきた人は先生でも部員でもなくて、学だった。
教室の前の時計を見れば、5時半だった。私は大慌てで書道道具を片付けた。
手は墨で汚れているから、トイレに駆け込み石鹸で綺麗に洗う。
手がピカピカになったことを確認して、私は学と一緒に帰る。
校門を出てすぐ、私は学の手を掴んだ。そして繋ぐ。
その為に手を綺麗に洗ったのだ。
墨で汚れた手で誰かの手を触りたくない。



の手、冷たいな」

「さっき、手を洗ったもん。墨で真っ黒だったから」



ぎゅっと学の手を握る。
冷えた手を温める。
高校3年生というひとつの区切りの年が始まった。
不安は積もり積もって崩れそうなくらい溜まっている。
きっと、誰だってそうだと思う。
私は空いた手を開いて、掌をずっと見つめる。
掌には何も無い。



「何もかも新しく始まって、なんか・・・」

「不安か?」

「うん、高3だし。進路とか決めなくちゃいけないし。けど、あんまりコレって決まった道もないし」

「なんとなくでいいと思う。進んでたらそのうちついてくるものはついてくるし、見えるものは見えるし。
 俺だって不安だけど、まぁもいるし、なんとかなるさって思えば、なんとかなるだろうな。
 なんとかならないって思ったら、なんとかならないんだよ。強気で行こう」



学の言葉に安心する。
ぎゅっと力を入れて拳をつくる。
何もかも新しくなった。
けれど、私は私のまま。学は学のまま。
私の側には学が、学の側には私がいるのは変わっていない。



「よし、じゃぁがトロトロしてっから電車に乗り遅れそうなんで、走る!」

「えっ」



学は笑って、私を思いきり引っ張って走る。
私は学についていけずに転びそうになるけれど、体勢を立て直してそれについて行く。
運動部の学にはかなわないけれど、頑張って走る。
手は繋いだまま。
恋人達が幸せそうに駆ける、というのには少し遠いけれど。
全力で走り、駅の改札を駆け抜け、ホームに到着した電車に乗り込めば息はあがっていた。



「明日から授業始まるし、頑張るか」

「うんっ」



不安なんてありすぎて困るけど、前向いて頑張らなくちゃ。
とりあえず、授業を受けよう。
それで、ちゃんと成績をとろう。
なんとかならなかったらその時に考える、それでいいんだと。





まだ新学期は始まったばかり。









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新しい、がタイトルだけど、新学期でもいいくらいの勢いで。
高校時代のことを思い出しながら書きました。
うちの高校、チア部はノースリしかなかったから寒そうだったよ、4月は。
4月は大半のことが新しくなる季節だから、不安だなぁ。
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