ねぇ、半分こしよっ。





      # 半 分 こ。 #





昼休み、監督から呼びだしをうけた俺は、職員室で延々30分どうでもいい話を聞かされた。
職員室から出て、大きな溜め息をついた俺は、制服のポケットに入れた携帯電話の時刻表示を見て焦った。

「12時50分」

昼休みは13時までだから、あと10分。昼ごはんを食べる時間など無いに等しい。
と言っても今日は短縮授業で、残すは少し長いホームルームが20分ほどだから、昼ごはんを食べなくても大丈夫なのだ。
けれど、その後部活があるわけで、俺は仕方なく部活に遅れることを決めた。

お腹がぐるぐる鳴るのは中身を消化してしまったからで。
早く口に物を入れたいのはやまやまなのだけれど、ホームルームが10分ほど長引いている。
物を口に入れたから眠気が襲ってくるようで、大きな欠伸をしている奴もいる。
机に伏せて眠ってしまった奴もいれば、俺と同じように昼ごはんを食べそこねて意識が遠ざかりつつある奴も。
先生の「じゃぁ、ホームルームは終わりで」の声と同時に、安堵の溜め息が教室中に吐き出されたのは言うまでも無い。
安堵の溜め息を吐いたものの、まだ掃除が終わっていない。
今日は運悪く一番時間のかかる教室掃除。
俺の班は班員が他より1人少なく、メンバー的にもやる気が無い奴が多いからだ。
俺は仕方なくひとり張り切って掃除をする。
部活仲間が訝しげな顔で俺を見ていたから、昼ごはんをこれから食べて部活に参加するということを伝えておいた。
そいつには「ご愁傷様でした」と言われてしまったが。
たいてい、監督につかまるのは俺だから。

やっと教室掃除が終わった。時刻は1時半を大きくまわっている。
俺は慌てて部室へ向かい、着替えてから持参した弁当を食べていた。
しばらくすると、部室の扉をノックする音が聞こえたから、俺は「どうぞ」と返事をして扉を開いた。
目の前に白い購買の袋を持ったが立っていたから俺は驚いた。
今日は放課後に部活があるから先に家に帰れと言ったのに。
はエヘへと照れたような笑いを見せていた。





「さっき原田くんに会って、学ちゃんがまだご飯食べてないって聞いたから来てみた」

「ああ、まだ食べてないんだ。監督につかまったからな」

「私もまだなんだ。これから発表会の準備しなくちゃいけないから居残りだってー」

「大変だな、生徒会も」

「そうなの」





生徒会役員を務めているは、どうやら来週の文化発表会の準備をしなくてはならないらしい。
部室の中に入って俺の隣に腰掛けると、袋の中から菓子パンとジュースをとりだして食し始めた。
まだ袋の中には何か入っているようだ。お菓子なんだろうな。
実際、に会うこと自体久しぶりだから話は弾んだ。
俺は部活で忙しくて、も生徒会に習い事に・・・と忙しくてメールで連絡取るくらいで。
年は同じだけれどクラスが違うだけでこんなに会うことが少なくなるとは思わなかった。
が、よく考えてみれば、他のクラスの連中に会うことが少ないのと同じなのだ。
去年は同じクラスだったから、嫌でも毎日顔を会わせていたんだ。
毎日会っていても飽きるし、会えなさ過ぎても心が離れていくし、難しいな。
恋の駆け引きほど難しいものはこの世に他に存在しないのではないかと思うくらい。
バスケで前に立ちはだかる敵をかわすことのほうが簡単だ。

は俺の弁当箱をじーっと覗き込みながらパンを口にもっていく。
おかずを一通り見渡して、は玉子焼きが欲しいのだと断定した俺は、手付かずの玉子焼きを箸で半分に割って箸での前に運んでやる。
は驚いて大きな目で俺を見ていた。





「玉子焼き、食べたいんだろ?」

「え、ほんとにいいの?ありがとう」





は指を出して玉子焼きをつかもうとしたから、俺は強引にの口の中に半分の玉子焼きを入れてやった。
「わー、学ちゃんに食べさせてもらったー」と、は恥ずかしがりながらも嬉しそうに言った。
はすぐ調子に乗る。「もっともっとー」と他のおかずと、俺に食べさせてもらうことをねだり始めた。
けれど、俺だってこれから部活をする身だからちゃんと食べてエネルギーにしなければならない。
これ以上はあげられないと断って俺はまた弁当のおかずを食べる。
はあっさりひいて、またパンをかじり始めた。
そういえば、はジャムパンが好きなんだよな。
イチゴジャムが好きで、母さんが作ったイチゴジャムをあげたら目をキラキラ輝かせて喜んでいたな。

パンを食べ終えたは、袋の中からお菓子を取り出した。
生クリームがたっぷり入っていておいしいと評判のシュークリーム。
1個100円で、両方の掌でおわんのような形をつくったくらいの大きさでボリュームがたっぷりあるのだ。
は「学ちゃんいる?」と尋ねて、俺の返事を聞かずにシュークリームを半分にわる。
そして「はいっ」と笑顔で俺に渡すんだ。
の指にはこぼれた生クリームがついている。
俺がシュークリームの片割れを受け取るまで、その生クリームの存在に気づいてなかったらしい。
俺は、に不意打ちをくらわせる。
こんなこと、今までしたことなかったけれど。
の手を掴んで、俺の顔を近づけて、の指ごと生クリームを舐めてやった。
は顔を蒸発しそうな勢いで顔を真っ赤にして湯気を出している。
俺は少し微笑む。





「が、学ちゃんのバカっ。こんなのっ、不意打ちだよぉ」

「やらないほうがよかったか?」

「え・・・あ・・・ううん・・・別に、いいけど」

「だったらいいだろ」





俺は意外と平然としていられた。
からシュークリームを受け取ってそのまま食べた。
カスタードクリームも入っていて、生クリームと絡み合い絶妙な味を作り出している。
まだは顔を赤く染めたまま、何も話さずシュークリームを食べるのに夢中になっている。
が話してくれないと少し寂しいなと思いながら、俺も黙って食べていた。
突然、部室の扉が開いて原田が入ってきた。
俺達の間になんともいえない空気が漂っていたのを感じ取ったらしく、原田は顔をひきつらせていた。





「どうしたんだ、2人とも。なんかあったのか?」

「いや、別に・・・」

「な、何にもないよ。原田くんはどうしたの?」

「タオル忘れたから取りに来ただけ。監督呼んでるから早く来いよな、高柳!」

「わかった。あと10分くらいしたら行くって伝えてくれ」





原田が部室から出た後、「あと10分だけか」とがつぶやいた。
あと10分だけ。と一緒にいられるのは。
けれど、また会えるから。また話せるから。また一緒にいられるから。
そう言うと、は笑って「そうだね」と答えてくれた。





「また何か半分こしようねっ。一緒に食べると楽しいもん」

「そうだな」

「今度は2人で何か半分こできるもの持ってきあおうね」

「わかった。約束な」





俺はと指きりして、2人部室から去った。
半分になると、なんでも減るけれど、その分、誰かと一緒にそれを共有できるからいいんだ。
と同じ時間を同じことをして過ごせるなら、それでいいよな。









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学ちゃんじゃないような、そうっぽいような・・・。
ヒロイン天然すぎるな・・・。

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