あなたの本音が聞けて とても嬉しいです





[ 愛しの恋人 ]





 委員会の仕事を終えた私は、少し本を読もうと図書室に足を運んだ。案の定、ガランとした図書室には貸し出し当番の図書委員の子が2人いるだけで、他の生徒は2、3人しかいない。静かな図書室で読書するのが私の楽しみのひとつなのだ。お目当ての本を本棚から見つけて、私は日当たりの良い南側の席に腰掛けて本を開く。赤く染まった空が窓の向こうに広がり、運動部の掛け声も減ってきた。
 特に、女の子の黄色い声が聞こえなくなったので、かなり静かになった。それはテニス部の練習が終わった、ということなので、私は今か今かと時を待っていた。年下の彼は、部活が終われば私を捜しにきてくれる。
 ふと気づけば本のページは70ページを示している。本を立てて上から見ると、丁度半分くらいのところを開いていることがわかった。かなりのページを読んでいる。意外と彼が来るのは遅いんだなと。もしかしたら、迷っているのかも、と。
 なんとなく気が向いた場所で、私はいつも待っている。だから、彼に私の居場所を伝えているわけではない。迷って当たり前なのだ。それでも携帯電話を遣わずに見つけてくれるのが、彼。
 一日の疲れも溜まっていて、私は本を読むのを止めて机に伏せた。つまり、ひと眠りしようと思ったのだ。目を瞑り、羊が柵を飛び越えるのを数える。ひとつ、ふたつ、みっつ……。すると、突然頭をバシっと叩かれたので、私は飛び起きた。睨みつけた相手は跡部景吾。


「何すんのよ、このバカ!」
「図書室で居眠りして、しかも寝言言うんじゃねぇよ。迷惑だ」
「だってー、ひよ、まだ来ないんだもん」


「今、来ました。遅くなってすみません、さん」と跡部の後ろからひょこっと現れたのは私の愛しの恋人、日吉くん。私はとびきりの笑顔で日吉くんを迎えて立ち上がった。けれど、日吉くんは私じゃなくて跡部を見ている。見ているではない。今にも噛み付きそうな勢いで睨みつけている。



「アーン、なんだよ日吉。文句あんのか?」
「ありますよ、部長。俺の愛しの恋人をいじめないで下さい」
「こいつがお前の愛しの恋人かよ。もっとまともなの選んだ方がいいんじゃねぇの?」



 失礼極まりない男の代表格だ。とはいえ親友の恋人。あまり馬鹿にするわけにもいかないのに、ついつい罵ってしまう。



「しっつれいなっ! レディに向かって何言うのよ、このバカ! あたしのマイベストフレンドが何であんたなんか選んだのか全く理解できないよ」
「お前に俺様の良さは一生理解できねぇよ」
「キー、相変わらずムカつく」



 ひらひらと手を振って優雅に立ち去る跡部を生温かい目で見送った。日吉くんは私に手を差し出し「帰りましょう」と言う。私はその手を取り笑顔で返事して図書室を後にした。ここで、疑問が浮かぶ。跡部景吾は何をしに図書室に来たのか? 私をからかう為にか?



「部長は借りていた本を返しに来たみたいですよ」
「そうなんだ。私をいじめに来たわけじゃないんだね」
「そんなこと、俺がいたらさせませんよ」
「いたのにいじめられてじゃん、さっき」
「すみません、俺、部長より遅れて図書室に入ったから止められなかったんです」



 本当に申し訳なさそうにしているから私は困ってしまう。けれど、今日はとても大きな収穫があったから私は満足していた。だって、大好きな日吉くんに「愛しの恋人」と言ってもらえたから。本当にそう思っているのならとても嬉しい。



「当たり前でしょう。さんは俺のいちばん大切な人ですから」





* * * * * * * * * *

2005年に誕生日祝いとして書いた捧げもの。うん、彼女の影響で日吉くんを書き始めました。 なので、今でも日吉くんは好きでも嫌いでもなく、普通なのです、実は。 日吉夢なのに跡部推しが書くとこうなるんだよ、友情出演すぎる。

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